現在放映中の大河ドラマ『西郷どん』のテーマ曲で、自然の風景から立ちのぼるような神々しい声を響かせているのが、奄美大島出身の歌手、里アンナさん。5月中旬からはそのドラマに女優としても登場するそうです。どこか妖精のようにするりとすり抜けるような透明感のある彼女に、歌を歌いつづける覚悟をもったときのこと、そして懐かしい島の香りの話を伺いました。
人を圧するわけではないけれど、爽やかな存在感が確かにそこにある。里アンナさんは、そんなふうに現れました。
歌を始めたのは、3歳のとき。
「奄美大島に生まれて、3歳から祖父に島の民謡を教わりました。18歳で上京するまでずっと習っていましたね。耳で聴いて、覚えて歌ってみる、という感じでした。妹も一緒にやっていましたが、声がハスキーだったのもあって、興味をもてなかったようで早い段階で止めてしまいました。私は違和感なくすっと歌い始めました」
おじいさまのすすめで、島唄の大会に出ることもありました。
島の民謡には様々な種類があるそうですが、敬老の日や結婚式などに歌われる「祝い唄」が多いのだそうです。
お祝いの席で、可憐な子ども時代の里さんが歌うのはさぞや可愛らしかったことでしょう。でも彼女は思春期には迷いもあったと言います。
「祖父母が喜んでくれるのは嬉しかったのですが。自分が、友達たちと違うことをやっているような気がして、これでいいのかな、と、歌いたくないなあと思ったこともありました。民謡の大会などに出るとき緊張して歌っていると、自分の足の裏を中心に自分が回っているような感じがします。なんだか歌わされているのかなあと思ったりしたこともありました」
ところがあることをきっかけに、彼女は本気で歌うようになります。
「甲状腺の病気をしたのです。悪性か良性かにかかわらず、首のあたりを切らなければならなくなり『手術後は、これまでのような声が出るかどうかわかりません』と医師に宣告されました。その時初めて、もしかしたら歌えなくなるかもしれない恐怖感をもちました。手術後、最初は歌いづらかったのですが、だんだんもとのように歌えるようになっていきました。私はそこでやっと、自分の意志で歌いたいと思ったのです」
病気をきっかけに、本当に歌いたい気持ちになった里さん。島唄の神様が、彼女の気持ちを確かめたのかもしれません。