先ごろ、令和6年度文化庁長官特別表彰を受賞されたファッションデザイナーの芦田多恵さん。芦田淳氏が創立した60年以上続くメゾンを継承するファッションデザイナーとして 活躍し、宇宙飛行士の船内服をデザイナーとして初めて手がけるなどファッ ションを通じて時代を切り拓いてきた功績が認められました。上質で優雅なエレガンスと「着ること」に革新を加えていくスピリットはどんなふうに育まれてきたのか。東京・代官山にある本社サロンで、お話を伺いました。
クオリティの高いものづくりをポリシーに掲げ、時代の空気を映し出す「ジュン アシダ」のクリエィティブディレクターであり、「タエ アシダ」のデザイナーとして活躍する芦田多恵さんは、故・芦田淳さんの次女。
芦田淳氏は、1966年から10年間、現上皇后陛下の専属デザイナーをされていました。
「ロイヤルファミリーの衣装といえば、フォーマルなイメージが強いかと思いますが、実は父が手掛けていたものは、当時のトレンドも取り入れていました。例えばサファリルックが流行れば、そういうスタイルを、ミニスカートが流行ればミニスカートも提案したようです」
確かに、まだお若い頃の美智子様がミニスカート姿で、幼少の秋篠宮様といらっしゃるお写真を見たことがあります。優雅でエレガントなミニスカート姿には、芦田淳さんのデザインならではの品の良さがありました。
「もちろん、皇室のプロトコールがありますし、周りの方々に支えていただきながらつくらせていただいたのだと思います。父自身、とても真面目な人でしたから」
絶対的な品の良さや美しさを引き立てつつ、革新的なものを取り入れていく。それは芦田淳さんの作る服に一貫してあったようです。
「父は、“エレガント&プラクティカル”をコンセプトにしていました」
“プラクティカル”は実用的な、という意味があります。でも、そこに保守的で変わらないものではなく、いつも新しい挑戦が加わっていたのです。
「例えば、ジャケットがリバーシブル仕立てでできていて、コレクションのランウェイの途中でモデルが脱いで裏返すと、まったく違うジャケットに見えるとか。スカートのボタンを外すとさっと軽やかに布地が広がって、新しいシルエットになるとか。そういうふうに人を驚かせるのが大好きな人で、それが父の得意とするところでした。とてもクリエイティブな人だったと思います」
残念ながら、2018年に芦田淳氏は88歳の生涯を閉じました。多恵さんはそのクリエイティビティを引き継ぎつつ、自らの世界をつくりあげていくことになります。