狂言、という伝統芸能を実際に観たことがある人はどれくらいいるだろう。
六世野村万之丞さんは、Z世代の狂言師。三兄弟で同世代にも狂言の面白さを広めようと、イベントやYouTubeで積極的に発信を行なっている。4月20日に開催される『ふらっと狂言会♭5』に向けて、今の意気込みや狂言の面白さについて語ってもらった。
六世野村万之丞さんは若干20歳にしてその名を継承し、今28歳。和服姿でなければ、一流企業にお勤めの爽やかな会社員のようにも見える。
しかし狂言と言えば、能とともに室町時代から続く格式のある伝統芸能の世界。稽古を始めたのは2歳半の頃。
「初舞台では子猿の役なので、台詞はないに等しかったです。その後、4~5歳で演じた演目の稽古では、前に祖父が座って、2メートルほど離れたところに子どもの僕が正座して、お手本の台詞を聞いてくり返す口真似から始めました。その頃はなんだかよくわかっていないですから、一度だけ『もう嫌』と言ったようですね。そのまま、稽古は続けましたが、高校時代は野球をやっていましたし。野球を引退した高3の夏ぐらいから、ようやく楽屋の手伝いや、鞄持ち、運転というような裏方を始めました。土日の舞台を真剣に観て勉強したりし始めたのもその頃からでした」
実際に狂言師を人生の仕事と決めたのも、その頃。
「同級生が、医者になりたいから医学部に行くとか、弁護士になりたいから法学部に行くとか、そういう進路を考えるなかで、僕も狂言が好きだし、やらなきゃいけないなという気持ちも固まっていきました。ただ大学を1年半ぐらい過ごして、まだ甘えているようなところもあって、友達との時間も大事にしたいしなどと思っていましたね」
そんな万之丞さんの意識を本腰にさせたのは、父親からの襲名の話だった。
「20歳目前のとき、この稽古場で稽古が終わった後に、着替えていたら『ちょっと話があるんだけど』と言われたんです。『おじいさんと相談して、おまえに襲名させようというふうに考えているんだけれど、その覚悟はあるか』と。急すぎて、一瞬、もちろん戸惑いましたが、その時は自分なりにその場で思考を巡らせて『あります』と返事はしました。ただ、今考えれば、その後、どんなことが待ち受けているかなんて、全くわからない状態でした」
名前に恥じない舞台をいつも務めていく覚悟。一門を率いていくという覚悟。万之丞さんは、その重責をネガティブに感じるよりも、ポジティブに捉えた様子。
「これは何かいいきっかけになるかもと思ったんです。たとえば会社組織で肩書きが変われば責任感が生まれるとか、そういうのと同じで、襲名をすることで、自分にプレッシャーをかけようと思ったんですね。『やらざるを得ない』覚悟のスィッチを入れようと」
周囲から彼を見る目も、襲名以来、変わっていった。
「『代々引き継いでいる家で、狂言をやっている人だ』というふうにはずっと見られてきたけれど、『次に継ぐ人なんだ』という認識で見られている感覚になった。この8年間、そういうふうに見られてきたことは、自分を成長させてくれたと思います」。