
 音楽に合わせ、ライトボックスの上に砂を撒き、そこに主に手で絵を描いてその映像をスクリーンに映し出す。
 どんなに細密な絵ができあがっても、さーっと波がさらうように消してしまう。
 …そんな瞬間の絵を楽しむ伊藤花りんさんのサンドアートは、老若男女が楽しめる世界。
 サンドアートの一瞬一瞬は、私たちの想像力を掻き立ててくれるのです。
 9月。神奈川県大和市文化創造拠点シリウス大ホールで催された伊藤花りんさんのサンドアートを拝見した。
 前半はギターとバンドネオン、後半は227のピアノとパーカッションに合わせ、花りんさんは砂で絵を描いていった。
 広田圭美さんの書いた新曲とともに描かれる宇宙、これまでにも回を重ねてきた『不思議の国のアリス』、『かぐや姫』。曲に合わせて繊細に物語の絵ができあがっていく。
 影絵のように映し出され、すぐに消してしまう。儚くてまた見入ってしまう。
「生で観てくださる方が増えると嬉しいですね。Youtubeもたくさんアップしていますが、映像で見るのとはまた違いますね」
 花りんさんはそう言って微笑む。細く長い手足、前髪を揃えた愛らしい顔立ち。彼女が描いている姿もまた、踊っているようで美しいのだ。
 もともとは、バレエを長く続けていた。
「北海道で生まれ育ったのですが、5歳からバレエをやっていました。みっちりやってはいたんですが、私にはバレリーナとしてのストイックさはないな、と。友達は高校生のときに海外へ行って、コンクールを受けたりしていて、一緒に練習しているとそれがわかるんです。すごく厳しい世界で、言われたことをパッと瞬間にできても、それを延々と練習している人たちがいて。それを横目で見ていると、踊りでプロになるってそういうことだよな、と思いました」
自分にはストイックさと厳しさが足りない。そう感じた彼女は、大学へ進学、心理学を学ぶことになった。
「人の心理そのものに興味はありましたが、実験とかレポートを出すとかは向いていなかった。結局は統計学なんで、根拠があるかどうかを数字で出していく世界なんです。私はもっとエモーショナルなものかと思っていた。もともと、表現が好きだったんだから、表現の世界へ行きたいと真剣に考えました」
楽しいものなら、きっと思いきり頑張れる。そう思った彼女はなんと、卒業後、就職が決まったわけではないのに単身上京してしまった。
