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    第272回:クミコさん(シンガー)

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《2》歌詞に娼婦とお酒が出てこないシャンソンを歌いたい

 やがてシャンソンを歌い始めたクミコさん。2000年に作詞家の松本隆さんの耳に止まることに。松本さんはクミコさんの歌に「言霊」を感じたのだそう。

「松本さんが一生懸命、素人のおばさんを頑張らせようなんて思ってくれて、オリジナルのアルバムが出せました。そこからいろんなふうに覚醒していった。松本さんのオリジナルは本当に素晴らしかった。ただ、自分のなかで、シャンソン的なもの、シャンソンの物語性やメロディーを捨てがたかったんです」

 そこへエイベックスから声がかかった。

「『今の時代にあったシャンソン、クミコ風のシャンソンをやりませんか』と誘われたんです。昔のシャンソンの名曲はあるけれど、私は新しい歌詞をつけ直したかった。例えば、それまでほとんど歌われていなかった『わが麗しき恋物語』と言う曲に、新しい詞が欲しいと思いました」

 そのとき、たまたまテレビを見ていて『千と千尋の神隠し』の主題歌『いつでも何度でも』の詞に衝撃を受けた。

「『生きている不思議、死んでゆく不思議、ゼロになるカラダ』という言葉が出てきたときに、雷に打たれたように『この人に絶対頼もう。この人じゃなきゃダメだ』と思ったんです。でも誰だかわからなくて」

 しかしクミコさんの強い想いが、その人のところまで縁を結びつけました。

「その新しいシャンソンのCDのプロデューサーが谷川賢作さん(詩人の谷川俊太郎氏のご子息)だったんです。谷川さんが出がけに『鎌倉でイベントがありまして』とチラシを置いて行かれたんです。そのチラシを見たら、下の方に覚和歌子さんの名前があって『千と千尋の神隠し』の主題歌『いつでも何度でも』と、プロフィールが載っていたんですよ。
もう本当に神様が助けてくれたとしか思えなかった。それで、すぐに賢作さんに連絡をして合わせてもらい、とんとん拍子に話が進みました」

 『わが麗しき恋物語』の詞を覚さんに依頼するとき、クミコさんはこうお願いした。

「絶対に娼婦とかお酒とかが出てこないようにしてくれ、とお願いしたんです。だから、新しい私にとって画期的な作品になりました。その後の歌手人生を形作ってくれた気がします」

 シャンソンに出てきがちなステレオ・タイプな言葉を排除すること。そのことで、日本で初めてシャンソンを聴く人の心にも寄り添えるものとなったのだ。

「悲しみ、一つとっても、ズズンと重い悲しみじゃなくて、さりげない悲しみが一番悲しいじゃないですか。そよ風みたいな、もしかしたら、爽やかさと見まごうばかりの悲しみが、人にとって一番しんどいから。それはすべての感情に言えるんだけど、重くない、羽のように軽いけど、そこに真実、喜怒哀楽があるみたいな。そう言うことを歌でやりたいと思ったんです。それが私の形のシャンソンだと」

 それまでのシャンソンは低い唸り声が入ったり、泣きそうだったり、大声だったりと言うものが確かに多かった。

「圧倒されるのって嫌じゃないですか。圧倒的、というものが苦手で。聴いている人が入れる余地がなくなっちゃう。余白がある方が救いになりますよね」。

《3》年を重ねることは財産。より楽しく、自由度が増している

 去年から今年にかけ、クミコさんはお母様を亡くし、お父様を看ている。ブログでそんな日常のなかで感じることを、重苦しくなく、さらりと短く綴られている。

「またフェーズが変わってくるけれど、これも本当に財産だなあと思います。生きていることって面白いです。だって、人間の生き死にを知りたくて生きてきたじゃないですか。それがどういうことかわからなくて生きてきて、ここへきて、親の生き死にを目の前に突きつけられて。わかる、わからないというよりは、恐れていたことがなくなる。いろんな疑問が解決されていって、次は自分になってくるんだけど」

 ブログのなかで「一人になることは、一人になってから考えよう」というような文章が出てきた。

「なるようにしかならないもの。とにかく目の前のことを一生懸命やっていく。だんだん、手練手管じゃないけれど、いろんなことがわかってきて楽になりますしね。生き物としては終盤に向かっていくんだけれど、それはそれで違う楽しみ方もある。旅でもね、帰り道でそろそろ終わりのときが一番楽しかったりして。急に自由度が増しちゃう」

 歌うことにも自由度が出てきた。

「歌がなくても楽しめそうなくらいの気持ち。でも歌わなかったらまずいんで(笑)、自分が蒔いてきた種を育てることには責任をもたなくちゃと思っています」。

クミコさん

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