高橋真梨子さんの『蜃気楼』、『あなたの横顔』、山下久美子さんの『バスルームから愛をこめて』、斉藤由貴さんの『青空のかけら』等々、ヒット曲を数多く手がける作曲家として活躍する亀井登志夫さん。その一方で、自らシンガーとしてのライブ活動もずっと続けています。音楽の役割と、これから歌うことへの思いまで、言葉を尽くして語ってくださいました。
早稲田大学在学中からすでにトラストという3人組で、亀井さんはメジャーデビューを果たしていました。
「僕はヴァイオリンとボーカルを担当していました。当初のメンバーに、僕がヴァイオリンのサポートをしたのをきっかけにそのまま入ることになりました。そしてそのバンドの歌の作詞は康珍化が担当していまして、そんな中で一緒に歌をつくるようになって行ったのでした」
康さんといえば、一瞬の風景を鮮やかに切り取るような歌詞の名手。やはりたくさんのヒット曲を生むことになるのですが、亀井さんは「初めて出会った作詞家が康だったのは幸せなことだった」と、当時を振り返ります。
亀井さんと康さんの名コンビはそこから生まれることとなりました。
「もともと、久美子さんがデビューする前にデモテープを作る機会があって、僕がやはりエレキ・ヴァイオリンで参加したのがきっかけでした。曲は『What a difference a day made』ジャズのスタンダードナンバーでした」
それから間もなく、山下さんは亀井さんと康さんが組んだ『バスルームから愛をこめて』で、デビューすることとなりました。
亀井さんは当時のレコーディング風景をこんなふうに振り返ります。
「やりたいと思ったことをやらせてもらえる土壌がありました。合宿のように長期でどこかに泊まり込んで、そこでアルバムを1枚作るとか。関わっているミュージシャンやスタッフだけではなく、そこにいろんな人たちが遊びに来て、思いもよらないセッションが生まれ、次の作品に結びついていく。そんな時代でした」
しかし80年代にヒットメーカーとなった亀井さんはだんだんとその状況に息苦しさを感じるようになりました。そして1990年から2008年まで、ロンドンに移住することになったのでした。
「日本の音楽界を1回離れて、やりたいことをやろうと。影響を最も強く受けたポップミュージックの中心、ロンドンを拠点にヨーロッパやアメリカでの仕事もしていました」。