まるでスパイダーマンのように、壁を縦横無尽に登っていくボルダリング。2020年東京オリンピックの追加種目にもなったこのスポーツは、日本人選手の活躍が著しく、なかでも先日、ボルダリングワールドカップで通算21勝を誇る野口啓代さんは期待を担う一人。11歳のときから続けてきて18年、クライミングへの思い、練習後のリラックスのための香りについて元気に語っていただきました。
普段着で現れた野口啓代選手は、和服の似合いそうな楚々とした美人。涼やかな目元が印象的です。しかし、競技用のウエアに着替えると、タンクトップからのぞく背筋は想像できないほど隆々としていました。
子どもの頃から、木登りが大好きだったと笑います。
「茨城県龍ヶ崎市にある実家が牧場を経営していまして、子どもの頃から、牛舎など、高いところに登るのが大好きだったのです。自然に囲まれていたので、木登りも遊びの一つでした」
そんな彼女が初めてクライミングのための壁を見たのは、11歳のとき。
「家族旅行でグアムに行ったのですが、そこにクライミングのための壁があったのです。普段やっている木登りみたい!と、父、妹と一緒にはまり、登って、楽しみました」
当時はまだ、日本にはクライミング・ジムも今ほどなく、彼女のお父様は車で30分ほどかけて、つくば市のジムへ連れていってくれたそう。
「それで、私が中学生になったときに、父は家にも壁を作ってくれました。最初は傾斜の緩やかなものでしたが、だんだんオーバーハングにしていって。私とともに、壁も成長していったのです」
お父様は特にアウトドアやスポーツをやっていた方ではなかったのだそうですが、野口選手のためにサポートを惜しみませんでした。お父様の野口選手への愛情と同時に、彼女のクライミングへの早い時期からの本気度もうかがわせます。
今も週に5日はトレーニングし、クライミング以外に体のバランスを整えています。
「クライミングのトレーニングとともに、体を整えるコンディショニングが大事になってきます。上半身の筋肉と、全身の筋肉のバランスをどう保つか。そして壁のなかの感覚をどう捉えていくか。休んだり、ケガをしてしまうと、落ちるのが怖くなったりしますから。トレーニングをしないと自分の弱さが出てしまう。ここまでやってきたのだから大丈夫という思いしか、自信にはつながりません」
テレビでワールドカップの様子がオンエアされていましたが、時間内に登り方を紐解き、ゴールを目指す姿からは、極限の集中力が伝わってきます。
「頭が疲れていたり、神経が疲れると、集中力が発揮されません。集中の仕方はとても重要です」。
また、オリンピックでの競技は「複合」となり、スピード、ボルダリング、リード、の3種目。選手が登る課題には、アクロバティックな動きやバランス、柔軟性など様々な要素が求めらます。
野口選手は、これまでボルダリングとリードを主にやってきました。
「一番の課題はスピードです。オリンピック種目にスピードが入ってから始めたので、まだ1年ぐらいしか練習していません。最初は得意なことだけやりたいという気持ちもありましたが、ようやく受け入れられるようになってきました。のびしろがあるとわかってきたのです。今は3種目やるのが本当に楽しみです」
日本でも、野口選手らの影響で、クライミングに注目はどんどん集まっています。
「注目度の高さは肌身でひしひし感じています。日本でこんなに浸透するとは思っていなかったですね。大会では同じ課題はひとつとなく、登っても登っても、飽きがこないところが面白いスポーツです。やっても楽しいし、Youtubeなどにも上がっているので、ぜひ見ても楽しんでもらいたいですね」
もちろん、彼女自身、このスポーツに飽きたことはないそうです。
「成績が出ない時期もありましたが、好きだから頑張ってこれました。クライミング以外のスポーツは意外とできないんですよ(笑)。登るのが好き、が、原点です」。