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今かぐわしき人々 第38回:瀬戸摩純さん(女優)
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    第38回:瀬戸摩純さん(女優)

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襟を詰めた凛とした和服姿も美しく。新派の女優として活躍する瀬戸摩純さん。
2月の東京・新橋演舞場『華の太夫道中』では、艶やかに花魁を演じます。今年は新派130年、松竹新喜劇70年、合わせて200年という記念すべき年。新派の女優になったきっかけからその道のり、今、去来する思いとは。

《1》

瀬戸摩純さんは、静岡県熱海の生まれ。芸能の道に入ったきっかけは、坂東玉三郎さんとの出会いでした。

「ある整体道場があり、そこに他の舞踊家とともに玉三郎さんもいらっしゃっていました。私は物心ついたときから踊りのお稽古をしていましたので、ご挨拶させていただく機会をいただきました。そのときに『あなたは新派向きね』と言ってくださったのです。その理由は私にはわかりませんが、おっとりしていて昔気質だったからかもしれません。玉三郎さんがおっしゃるならやってみようかと、ちょうど二期生を募集していた新派のオーディションを受けたのです」

しかし、新派は舞台を中心に活動する劇団ですから、一般的な芸能事務所とは大きく違っていました。もっとも特徴的なのは、徒弟制度です。

「高校を卒業していきなり新派に入団しましたので、その世界しか知らないということになります。私は二代目水谷八重子の弟子になりました。先ずは研究生で付き人から修行をしまして、咳払いされるだけで縮み上がっていましたね(笑)」

当時は1日に4本も5本も芝居があり、その支度もすべて瀬戸さんの仕事。さらに自分も出演するようになると、その忙しさは想像を絶するものでした。

「3階の大部屋から地下の衣裳部屋へ衣裳を持って着せて頂き、出番が終われば自分で畳む。しかし畳む時間は師匠がお帰りになり、掃除・洗濯・小道具点検等…全てが終わった後。夜中大部屋に戻ると私の化粧前だけライトがついていて、山積みになった衣裳がスポットライトの様に照らされ、涙が止まらなかった思い出があります。また1日10数回顔を変えるので、肌もボロボロ。犠牲にしたものも多いですね。」

そんな日々を支えてもらったのは、お客様と、スタッフさんの存在でした。

「『よかった』『感動したよ』と声をかけられると、この仕事をやっていてよかった、と思いました。衣裳さん、床山さん、舞台監督、大道具さん、小道具さん、照明さん、音響さん…。そんなスタッフの皆様に支えて頂き、一つの舞台が出来上がっています。もちろん、両親や家族の協力もありますが、一人では何もできないと思うと、ありがたくて、また頑張ろうと思えるのです」。

《2》

もう一つ、瀬戸さんを女優魂に駆り立てたのは、早くに役をもらえたこと。

「入団して3年目に『明日の幸福』という演目で、嫁役のオーディションに受かったのです。役がつくようになると、やめるにやめられないですよね」

演技について考え、迷ったときには、師匠の水谷さんからの一言がありました。

「普段はあまり何もおっしゃらないのです。でも、自分なりに考えに考えてやっていて、どこかでレールがそれていることってありますよね。そういうときに、ふっと『摩純、こうした方がいいわよ』とチョッとした事なのですが、心情からアドバイスして下さる。それが的確で!そして千秋楽までに『ちょっとよくなったんじゃない』と言ってくださる。それは本当に嬉しいですね。対して、直接の師匠ではありませんが、波乃久里子さんは『ここはこうしなきゃダメよ』と型や技を教えて下さいます。古典には古典の型、様式美等もありますし、どちらも大切な教えだと思います。」

まっすぐにすくすくと女優の道を歩んできた瀬戸さんは、今は看板幹部と呼ばれる、主要な役柄を演じます。
2月の新橋演舞場『二月競春名作喜劇公演』の2本立てのうち『華の太夫道中』では御職の太夫(1番人気)役を。

「最後は華やかな花魁道中のシーンもあり、春にふさわしい演目。ぜひご覧になっていただきたいです」

瀬戸さんは様々な役どころを体当たりで演じ続けています。昨年11月には『犬神家の一族』で、竹子役を。また1月の『家族はつらいよ』では、長男の尻を叩く強い妻・成子の役(映画では中島朋子が演じている)を演じました。

「ついこの間までは正統な娘役が多かったのですが『気の強い役のほうが合ってるよ』って言われるのですけれど、どうしてでしょう(笑)。でも、役の幅はどんどん広げていきたいと思っています。思うようにいかないと苦しいけれど、他の役者さんとの反応も楽しむ事が出来る様になってきました。」

体力と精神力、そして謙虚さ。求められるものに純粋に向き合い、取り組んでいく。瀬戸さんはまさに舞台の人なのでしょう。

瀬戸摩純さん

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