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今かぐわしき人々 第39回
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    第39回:野月聡さん(能楽師・無形文化財保持者)

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能は日本が世界に誇る伝統芸能。なかでも宝生流は重厚な芸風で知られる流派です。無形文化財保持者でもある野月聡さんは、そんな能の世界に身を置きながらもどこかに軽やかさを感じさせる素敵な人。心地よい緊張感に満たされた能舞台と深淵なその世界を垣間見せていただきました。

《1》

能の歴史は7世紀にさかのぼり、中国大陸から伝わった伎楽や散楽がもとになったと言われています。その後、室町時代に将軍・足利家に擁護され、豊かに広まっていきます。宝生流のもとになる「宝生座」もその頃に生まれ、江戸時代にさらに盛んになってゆきます。  
ですから、古い装束や面(おもて)は、室町時代のものからあるそうです。

「面は非常に大事に扱っており、稽古用にはまた違うものを使います」

野月さんはひとつずつ、面や装束について説明してくださいます。
現在の宝生能楽堂は、昭和25年に創設された建物。関東大震災、第二次世界大戦と二度の焼失の末に新たに建てられました。現在は能の公演だけでなく、指導やワークショップのようなイベントも行われています。

「私は高校卒業と同時にここに住み込み、18代宗家宝生英雄の内弟子になり入門しました。自炊しながら、家元に稽古をつけてもらい、東京芸術大学に通っていましたので、大学でも勉強と稽古をしました。外に出るのは学校へ行くときだけです。それでもう、これしかないという決意でした」

能は代々で跡目を継ぐことが一般的ですが、野月さんは初代。

「青森に生まれ、習い事として地元のセミプロの方に能を習い始めました。発表会があり、能楽師に子方でやってみないかとお声がけいただいたのです。私は小学1年生でしたから、なんのことやらわかりませんでした。『東京に稽古にいったら、ご褒美に後楽園遊園地に連れて行ってあげる』と親に言われ、そのご褒美目当てに通い始めたようなものでした。しかし、中学、高校と進むにつれ、プロの能楽師になりたいと思うようになりました」

野月さんはその才能と心根を認められ、ほとんど奇跡的に内弟子になることができたのでした。それにしても、10代の青年が住み込みで朝から晩まで能のことだけに専念する生活を選ぶのは並大抵の精神ではないでしょう。
「私はこういうものか、と思っていましたので。先輩や仲間たちも励ましてくれました。能の世界は一生修業です。」

覚悟を秘めた野月さんの笑顔は、驚くほどさわやかです。

 

野月聡さん

《2》

能は一回公演のみで、シテ方の場合やったことのない演目をやることがほとんどです。シテ方と呼ばれる「主役」を演じるとき、その人は慣れていないのに主役。それはどうしてなのか、野月さんに聞きましょう。

「一回の舞台をひとりの人の“生”ととらえているので、やり直しはきかないのです。だからこそ生まれる緊張感があるのです」

もうひとつ、その緊張感は能舞台という空間が作り出すものでもあります。なぜなら、能舞台は裸舞台。緞帳もなく、役者が入場するところからすべて見えるからです。

「役者が入場してきて、物語が始まります。エンタテインメントではなく、ストーリーは鎮魂再生、天下泰平などがテーマです」

どうやら能は、わくわくしたり、楽しませてもらうのではなく、何かよくわからないもの!? 確かにそこにはわざと眠くなるように考えられているのではないかと思うような謡や言葉があります。(なかには、早口でやるものもあるそうです)
では、どのように観ればいいのでしょうか。

「私たちは日常でも、何気なく空を見上げたりすることがありますよね。見ていると、想像力が働いたり、何か、ああ、こういうことなのかな、と気づいたりすることがあります。理解やスピードといったことを忘れて、その場にしかない、非日常を味わっていただきたいのです。一番大事なことは、見えないものを見ていただく、ということなのです」

実際に、稽古用の面をかけさせていただきました。目の部分は、若い面は四角く空いており、老いた面は丸く空いているようです。まるで、人間は歳を重ねれば、だんだんと物事を丸く見られるようになるんだと言われているような気がしてきます。思ったよりも視界が狭く、遠近感もいまひとつわかりません。

能舞台にも特別に上がらせていただきました。
柱は舞台から客席までの遠近感をわかるために存在するのだというのもよくわかりました。重たい装束を着け、静寂のなかを舞台へと進んでいくための胆力は、確かに内弟子で何年も修行しなければできないことのように感じられました。

野月聡さん

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