クロマチックハーモニカとは、4オクターブと2音の音域が出る自由度の高いハーモニカ。この楽器奏者として10年、このほど全曲オリジナル曲のアルバム『Canvas』を発売して話題の南里沙さんにご登場いただきます。日本のみならず、中国、台湾などアジアでも大人気の南さんの音楽への思い、香りへの思いとは。
渋谷のセルリアンホテルに隣接するジャズクラブJZ Brat。1月に行われた南里沙さんのニューアルバム『Canvas』リリース発表ライブは満員御礼。CDジャケットと同じ白いドレス姿で登場した彼女は、ギター、パーカッション、ピアノといったバンドを従え、美しいオリジナル曲の数々をマイク一本で軽やかに演奏していきます。
「今回のアルバムは千住明さん、田中公平さんら、素晴らしい作曲家の方々が曲を提供してくださいました」
どの曲も、彼女自身の音色に染まって、さらに輝き出していきました。
時に語りかける言葉はやさしい関西弁のニュアンスが。それもそのはず、今も拠点は宝塚市においています。
オーボエ奏者を目指し、神戸女学院大学音楽学部で学んでいました。
「オーボエ奏者になる気満々でした。そのとき、オーボエ専攻は私一人。
たくさん学生がいるフルートなどの楽器は、オーケストラの授業だと交代でしか出られない。でも私は1年生からみっちり入れてもらえました。オーボエもハーモニカもリードのある楽器。無意識のうちにリードの音色が好きになっていったのかもしれません」
そんな彼女がハーモニカと出会ったのは大学3年生の春のことでした。
「面白い楽器だなと思いました。吹けば吹くほど奥が深くて。一度にふたつを学べるほど簡単じゃない。じゃ、どっちを選ぼうかと。大学卒業と同時にハーモニカを選びました。吹く人によって音色が響きが違うから、自分の人生、もっているものを音にできる面白さがどんどん広がっていきますね」
南さんが演奏することで、クロマチックハーモニカの認知度が高まっているという効果もありそうです。
「プロのクロマチックハーモニカ奏者は、本当に数えるほどしかいないのが現状。自然と、みなさんが生演奏を聴く機会も少ないですから、広まるのが遅いのかもしれません。楽器を知ってもらうためにも頑張りたいですね」。
今、東京と大阪を行き来する一方で、海外からの招聘も増えつつあります。
「中国や台湾ではハーモニカ教育が盛んで、より上手くなりたいと願う人も多いのです。ですから、コンサートのほか、大きな楽器屋さんのイベントや公開レッスンのようなものも企画してくださっています。1日に数千人の人が集まってくださるのも珍しくなくなってきました」
もはやクロマチックハーモニカを世界に広めていく役割も担った南さん。
「国内でも、東京、大阪を中心にレッスンを開催しています。小さなコンサートのときにステージに上がって一緒に弾いてもらったりすることもあるのですよ。海外から来てくださっている方もいます。『南さんの演奏を聴いてクロマチックハーモニカを始めました』と言われるのは嬉しいですね」
小さな楽器が大きな出会いを運んでくる。それは南さん自身も強く感じていることです。
「2015年にはサントリーホールのアニバーサリー・コンサートでも吹かせてもらったり。ハーモニカが、夢にも思わなかったところへ連れていってくれるし、憧れていた場所を近くに感じさせてくれたり、憧れていた人と出会わせてくれる。
始めた頃は、こんなにパワーのある楽器だとは思ってもみませんでしたね」
毎年、その年のテーマを決めるという南さんは、さらに大きな出会いへの夢を描いています。
「去年のテーマは『夢をかたちに』でしたが、今年のテーマは『出会いを求めて』です。もっといろんな場所にクロマチックハーモニカと一緒に旅して、いろんな人と出会って、いろんな人にハーモニカと出会ってもらって。私は迷わず、まっすぐ進んでいきたいと思っています」。