今そう思うのも「迷っていた時代があったから」だという南さん。そんな学生時代の記憶を、香りが連れてくることがあるそうです。
「学生の頃の音楽室の香り。たぶん、当時は感じていなかったかもしれないけれど、今戻ると本当に懐かしい。今、その音楽室の香りをここでかいだとしたら、壁にあったベートーベンの写真まで思い出せると思います(笑)。生活圏の香りというのは、今暮らしている瞬間よりも、きっと記憶に蓄えられているのではないでしょうか。以前、ある音響会社の無音室というのに入れてもらったことがあるのですが、怖いんですよ、すべての音が吸収されてしまった空間は。だから、感じていなくても今ここにある香りというのに支えられている部分は大きい、と思います」
旅先には、一人で楽しめる香りをもっていくそう。
「小さなスプレーに入ったものですね。さっぱりしたいときは柑橘系。落ち着きたいときはラベンダー。アロマ系の香りは子どもの頃は全体的に苦手だったのですが、ハーモニカを始めてから、心地よく感じるようになりました。演奏のための呼吸を整えたり、本番のそわそわした気持ちを落ち着かせるためにかいだりします」
ハーモニカは、奏者の息遣いが音になる。そうだとしたら、良い香りはまたよい呼吸につながり、さらに良い音につながっていくのかもしれません。
歌うように吹く彼女の美しい音色は、さらにその響きと艶を増していくことでしょう。
■2019年4月27日(土)名古屋・アーク栄サロンホール | プチプチコンサート
■2019年5月25日(土)北海道・六花亭本店 6F ふきのとうホール | 南里沙コンサート
コンサートの詳細は https://minamirisa.com
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 ヒダキトモコ
https://hidaki.weebly.com/