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今かぐわしき人々 第43回:山本容子さん(銅版画家)
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    第43回:山本容子さん(銅版画家)

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美大生時代からその卓越した才能を認められ、洒脱な線描と色彩で圧倒的な数の作品を生み出し続ける、山本容子さん。銅版画に始まり、絵画からステンドグラスや壁画など、彼女が彩る場所も豊かに広がっています。2019年の春、銀座で二つの大きな展覧会を開催する山本さんに、今回の展示の内容と、香りとの関わりについて伺いました。その美しい色の向こうには、目には見えないけれど伝わってくる幸福感があふれています。

《1》

山本容子さんを訪ねたのは、4月14日まで「山本容子展—時の記憶—」が開催されている東京銀座・THE GINZA SPACE。
今回出展されている銅版画の数々は、2002年にルイ・ヴィトン表参道旗艦店の工事中に「私の時間旅行」と題され、1日1点ずつライトアップされた385点です。
オリジナルの和紙に刷られた版は、1枚1枚、和紙に漉きこまれた白い糸で結わえられ、天井から飾られています。上の方にある絵のためにはオペラグラスが用意されていたり、山本さんのアトリエが復元されていたりするのも、心憎い演出です。
しかしなぜ、今2002年の絵だったのか。そこには大きな意味がありました。

「THE GINZAの新しいスペースができて、そのブランドをどういうアプローチで伝えていくかを考えられたときに、ここでコミュニケーションを取り合って通じ合えるお客様と出会いたいと思われたそうです。ブランドの価値が理解され、長く続けていくためにはそういう関係性が必要になってきます。そこで私に白羽の矢が立ったのは、ちょうど2002年にTHE GINZAが化粧品を出したとき、私もコラボレーションをさせてもらったということがありました。私は銀のフレームに4ミリ角のエッチングを入れた指輪をつくっていました。4ミリのなかにダイヤモンドやエメラルドを描いていたのです。フローティングソファーと名付けた透明の椅子をショーケースにして、それらを飾って店頭に置いてもらいました。一般的には固定されたショーケースが、店内を移動したら素敵だなと考えたのです」

そこから始まった20年近いスタッフとの交流が、今回の展覧会に昇華したのでした。
山本さんのこれまでの仕事は、そうした感性豊かな人との出会いが作り上げてきたものだといっても過言ではないでしょう。

「ルイ・ヴィトンの仕事のきっかけも、ある日突然、同社のプロジェクト・マネージャーだという人から電話がかかってきたのです。『僕はあなたを見つけた!』と。いえ、私は会っていないはずなのだけれど、と思っていると『本屋であなたを見つけたのです』とおっしゃった。その頃、私は本の装丁をたくさん手がけていました。それは絵描きとしてギャラリーで気づいてくれる人しか見てくれないのは寂しい、本屋さんに私の装丁が平置きされれば、たくさんの人が見てくれると思ったからです。まさにそれが報われたのですね」

そこからルイ・ヴィトンの世界の都市の画集「トラベル・ノートブック」の「東京五十景」の依頼があり、3年がかりでそれを仕上げた後、パリでの展覧会が開かれました。その評価とそこでのコミュニケーションがあり、表参道旗艦店の工事中を彩る絵へと結びついたのでした。

「工事中の仮囲いそのものをスクリーンに見立てて、毎日ひとつ絵を投影する。そのシステムを作るのには莫大な費用がかかったのですが、それまでの画家としての私との関係性があって、叶えてもらえました」

山本さんの絵のひとつひとつには、その人々との瞬景がこまやかに刻まれているようです。作品からは目に見えない幸福感が発せられていて、まるで見ている私たちに微笑んでくれているようなのです。

山本容子さん

《2》

THE GINZA SPACEでの展示の後、すぐに4月25日から同じ銀座の和光ホールで「山本容子 ポートレート展—本棚の仲間たち-」が始まります。

「1980年からポートレート作品を描いています。最初に描いたのはマチスの肖像でした。それからアンディ・ウォーホール、ジャスパー・ジョーンズ、ピカソ。本棚に長く残している大好きな本や、画集、音楽など、私が関心を注ぎ続けている芸術家のポートレートを中心に100点ほど展示します。THE GINZA SPACEで見せるものがひとつの時間だとしたら、こちらでは時の流れを見せるということになります。たとえば、28歳のときの私が描いたマチスと67歳の私が描くマチスを横に並べてみたり。そして、見る方たちが経てきた時と重ね合わせてもらえたら嬉しいです」

山本容子さん
「Walking Worker-Warhol」/1982年 額サイズ68×83㎝

山本容子さん
「WARHOL」/2001年 額サイズ 53×46.5㎝

今年は秋にも大きな展覧会がもうひとつ用意されていて、今はその準備にすでに取りかかっておられるそうです。
私事ながら、ここ20年、何度も取材させてもらいますが、いつお会いしても全力で絵と向き合っていらっしゃる姿が印象に残っています。
2005年からは「アート・イン・ホスピタル」というプロジェクトも始まりました。

「病院壁画ももう10年以上続けています。来年の1月にはには高松市にある赤十字病院の東玄関を飾る予定です」

病院に本物のアートがあれば、どんなに人の気持ちを安らげることができるだろう。… そういったアイデアを思いつき、果敢に形にしてゆく山本さんの柔らかなエネルギーはまだまだ止まるところを知りません。

山本容子さん

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