山本さんはアトリエに入ると必ず、お香を立てるそうです。
「以前、京都のあるお店のお香をいただいて、それがきっかけでした。そのお香は1本ずつに小さな文字が入っています。色も香りも様々で、私は瓶からおみくじを引くように一本ずつ出して、今日の香りはなんだろうと焚くのです。今日はどんな天気かな、というような感じでね、遊んでいるの。アトリエは換気していますが、薬品のケミカルな匂いもあるので、お香に助けられています」
なんとも素敵で日常的なお香とのつきあい。スプレーではなく、お香ならではの楽しみ方です。
「ちょっと面倒くさいのが良いのよね。でも、沈香でなくてはとか伽羅でなくてはとかいうのではなくて。私にとって香りというのは、子ども時代からの長い生活の感触とともにあるものなのです。たとえば、おばあちゃんの箪笥を開けるときものから香りがふっと空気とともに抜けていったり。そこから蓄積されていっているものがあります。世の中には香水のバラの香りのようにうっとり、という香りもあるけれど、日本人にとっては生活のなかにほのかに漂う香りがいいのではないかしら。生活臭というと嫌な言葉になるけれど、生活の香り、は絶対に必要ですよね。それがないと、無味乾燥になってしまいます」
きちんと生活し、味わって生きる。山本容子さんは、アーティストであり、一人の女性としてとても美しい生き方をしている人。彼女の絵から漂うそこはかとない香りを感じに、この春は銀座へ何度も出かけてみましょう。
・ 山本容子プロフィール
1952年埼玉県生まれ、大阪育ち。京都市立芸術大学美術学部西洋画専攻時代から、第2回京都洋画版画美術展新人賞受賞など、受賞歴多数。2005年から医療現場における環境の提言として「アート・イン・ホスピタル」に取り組み、2018年現在全国11箇所の総合病院の壁画、ステンドグラスなどの制作を展開中。
「山本容子展 —時の記憶—」
2019年3月4日(月)〜4月14日(日)
11:00〜19:00
会場 THE GINZA SPACE
中央区銀座5−9−15 地下2階
「山本容子 ポートレート展—本棚の仲間たち- 」
2019年4月25日(木)〜 5月6日(月)
10:30〜19:00(最終日は17:00まで)
会場:和光 本館6階 和光ホール
中央区銀座4−5−11
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 荒木大甫