イラストレーション、グラフィック、インテリア、音楽、ファッション。
まさに暮らしとともにアートを生み出し続けるミック・イタヤさん。
「東京スカイツリー」ソラマチの壁画やオブジェ、茨城県の伝統工芸品とのコラボレーションなど、その創作分野は広がるばかりです。
飄々として、品よく。その美への思いに迫ります。
長身で、スリムで、年齢不詳。けれども、ミック・イタヤさんのプロフィールを見ると、その膨大な作品量と確立された美の世界に圧倒されます。
初期のUNIQLOのビジュアルや、今も続いているBEAMS LIGHTSのデザインなど、私たちの生活にすっと溶け込んでいるような作品がたくさんあるのです。
そのきっかけも、人との自然な関係性から始まっているようです。たとえば、茨城県の伝統工芸品とのコラボレーションは、昨年、今年と東京・表参道のスパイラルガーデンなどで展覧会が行われていますが、始まりは、幼なじみとの交流からでした。
「ちょうど10年ほど前に、幼なじみの鈴木茂兵衛商店という提灯屋さんと、一緒に提灯を作ったのです。それが評判になり、フランスなどでも人気が出て、2012年にGOOD DESIGN賞をいただくことになりました。それが県の人たちの目に止まり、茨城県の工芸品をプロデュースすることになったのです。和紙、桐の製品、結城紬など、茨城には多くの素晴らしい伝統工芸品があるのです」
他にも日本で初めてクリスタルグラスを作った会社や、墓石としても有名な真壁石など、まだまだこれからプロデュースしたいと思うものがたくさんありそうです。
「これは絶対にこうしなくては、ということはありません。 デザイン、アーティスティクな考え方。そういったことで、まったく違うものが生まれてくる可能性があります。そういうことを定期的にお会いして取り組んでいます。いろんなことがミックスされているのが茨城の懐の深いところなのです」
個人的に筆者も先日、友人を訪ねて初めて茨城に行ってきました。世間では「魅力のある県」の最下位にランキングされていたりするというのが信じられないくらい、豊かで、自然もセンスもあるところです。
茨城の伝統工芸品も、とても美しいものがたくさんあります。まだまだ、知られていないということなのでしょう。
近々では、5月25日から6月16日までの約3週間、東京・新宿のBEAMS JAPAN 5階「B-Gallery」で「The Eccentric Ancient」と題した展覧会が開催されます。
「風変わりな古代人というテーマは、ずっと根本的な僕の考えにあります。僕たちは現代人、現代人と言ってみたところで、過去の蓄積でここにいるのです。だから、石器時代を思い出して、それを未来に向けてどう活かしていくのかを考えてみたらどうかなと。そういう思いをもとに、シンプルにハートと星で表現するようなことをやってみます」
今回はどうやらそこには絵だけではなく、音楽も加わりそう。なんと、80年代にニューヨーク近代美術館に永久保存されたというカセットマガジン「TRA」を復活させるという話もあります。
「1982年に写真家の伊島薫、プロデューサーの式田純と一緒に、カセットつきビジュアルマガジンというのを世界に先駆けて創刊しました。カセットマガジンTRA(トラ)、と名付けてね。コンセプトはアーティスト・カタログ。同じ志を持つ身の回りの人を写真や絵や音楽で紹介していこうと。自分たちのメディアが欲しかったのです。5000セットくらい作りました。スペシャルイシューといって、特にこの人、というのを特集したり。PLASTICSの中西俊夫や、フランス文学者の平野威馬雄を取り上げたり。そのときに、ミック・イタヤ特集も予定していたのだけれど、出す前にプロジェクトが解散してしまったのです。そのときのデモ・カセットテープが今もあって、ちょっとデタラメなところもあるけれど出してしまおうかという話になっています。BEAMS RECORDSがやろうと言ってくださっています」
ミックさんのプレイするドラム、ギター、ベース、サキソフォン、リズムボックス、そして詞と歌にも興味津々です。