作曲家でピアニスト、指揮者。また今も東京藝術大学で教鞭をとり、イベントやコンサートのプロデュースも多数手がける青島広志さん。テレビ番組「題名のない音楽会」や「世界一受けたい授業」などで、その話の面白さは万人の知るところ。7月30日、31日に開催される「青島広志のバレエ音楽ってステキ!」は、青島さんの細やかな感性で子どもから大人までが楽しめるイベントになっています。
人間を深く見つめるその視点はどこから生まれるのでしょうか。
40年もの間、週に3日は母校の東京藝術大学ほかで学生を指導しながらも、エッセイの執筆、イベントやコンサートのプロデュースなど、多忙を極める青島広志さん。
年に一度はライフワークとして古典的オペラを「ブルーアイランド版」として独自の解釈で書き直し、演出して、二期会の名だたる歌手や藝大の卒業生たちを大挙出演させています。今年は6月に『魔笛』を中央区立日本橋公会堂で開催しました。
「何十年も勉強してきて、オペラのことはだいたいわかってきました。それぞれの演目には様々な矛盾や、もっとこうしたらいいのにと思うところがあります。それを私なりの解釈で作ろうと始めました。たとえば『魔笛』の場合、夜の国と昼の国の闘争で、最後は太陽の王が勝つというもともとのストーリーがあるのですが、夜の国の王女のパミーナは、あれほどまでに慕っていた母親を捨てられるのはなぜだったのか。どうして男性優位に描かれているのか、等々。お客様により楽しんでもらうために、本来女性を起用するべき童子1,2,3も、少年にしてドラえもん、ピカチュウ、コナンを想像できるような衣装を着てもらいました(笑)」
出演者たちはこの年に一度の祭典を本当に楽しんでいる様子。なかには「ストーリーがあまりに面白く、出演しているのに楽しんでしまう自分がいます」などというコメントが多数。
「一流の音楽家たちがやるケレンですよ。面白くなって当然ですよね」
しかし、オペラを再構築するときにも際立っているのが、青島さんの発想の自由さ、人間への深い洞察です。いったいその視点はどこから生まれてくるのでしょう。その問いへの答えは、意外なところにありました。
「私の原点は、少女漫画なのです」。
青島さんが少女漫画と出会ったのは、幼少期、ピアノを習いに行っていた先生のところでした。
「ピアノを習いに行くと、少女漫画があったのです。少年漫画は根性と暴力とギャグばかりだけれど、少女漫画には物語があり、愛憎のある人間関係が描かれています。そしてそのとき、弾いている曲のタイトルと重なるものがあったりして。 物語を読んだ感情を曲に重ね合わせたりしていました」
当時はバレエ漫画が人気でした。
「バレエも少女漫画で見たのが初めてだった気がします。でもあとから聞いた話ですが、当時、バレエ漫画を描いていた日本の漫画家は、本物のバレエを見たことがなかったそうです。編集者に渡された海外のバレエの本を写して描いていたそう。まだ日本はそういう時代だったのです。私もバレエに憧れましたが、男性がバレエを習いに行くこともほとんどなかったと思うし、遠くにあって関われないものでした」
中学生になると、少女漫画を描き出したという青島さん。しかし、両親には反対されてしまいました。
「中3のとき、講談社や集英社に自分で描いた少女漫画を持ち込んで、3万円ぐらいもらった記憶があります。両親はそれでも私が漫画を描くことには猛反対して、それをやるなら音楽のほうがいいだろうと」
そこから東京藝大に入り、大学院修士課程を首席で卒業するまでになるのですから、青島さんの才能の凄さがわかるというもの。そして、音楽と「少女漫画」は今も発想の源で結びついているのです。
「たとえばソロで歌う場面では、まったく小道具がないよりも、『眠れる森の美女』に出てくる“花のワルツ”のように両手に花輪をもっているようなバレエポーズや、”ローズアダージオ”のオーロラ姫のように本物の花を持たせても美しいのではないか、というように考えたりします。