高校時代から占い雑誌に寄稿し、大学時代にはすでに売れっ子占星術研究家に。やがて占星術、タロットの根源である神話や自然科学まで探求し、海外の学会でもその名を知られる鏡リュウジさん。
今回は香りと占星術の深い関係と、2020年に幸運をもたらす香りについて、またご自身と占いの半生を熱く語っていただきました。
『魔法の杖』シリーズは100万部、『12星座の君へ』は80万部突破のベストセラー。実用から学術書まで多岐にわたって執筆されている鏡リュウジさん。もちろん、女性誌や占いサイトでの活躍は多くの人たちの知るところです。
もともと、占いに興味をもったのは10歳頃のこと。
「10歳くらいから、占いに興味をもったんです。でもいったん、中学の頃には『迷信』だなと気づいてしまう。とはいえ占いや魔法のもつ魅力には抗えない。この自分の中の矛盾を抱えるうちにユングに出会ったんです。ユングも同じような葛藤を抱えていたからです。ユングを通して占いを見直していく作業が始まりました」
鏡さんのなかでは占星術と、今、日本にある占いとは一致しないようです。
「ネットに氾濫している占いと、占星術とはまったく違うものです。占星術とはもっと伝統的で歴史に根ざしているもの。シェークスピアもルネッサンスの絵画も、占星術をもとに表現されているのです。一言でいうと、人間を『宇宙』の一部である、小さい宇宙であると考える思想なのです」
17世紀以前、「占星術」Astrologyは「星の学問」で今の天文学と別れてはいなかったそう。数学、音楽、医学などとも不可分だったそうです。
レオナルド・ダ・ヴィンチは「万能の人」と言われ、さまざまな学問に通じていたことが知られています。知の専門化、蛸壺化が進んだ現代と違って当時は「総合知」を目指す人が多くいたのです。ノストラダムスも医師であり、占星術師であり、詩人であり、また『化粧品とジャム論』の著書も残しています。
「近代医学が登場する以前、西洋においても医術は小宇宙たる人間と大宇宙の対応を基礎においていました。だからこそ占星術と関わるのです。その医療において、ハーブが中心的な役割を担いました。東洋でも、中国でもインドのアーユルヴェーダも、チベットでも伝統的な医学は『大宇宙と小宇宙の照応』を前提とするという意味で根本的に思想は似ています」
しかし西洋医学は17世紀以降、近代が生まれてくるプロセスで、機械的、部分的なものとなっていきました。
「今、東洋医学は『ホリスティック(全体論的)医学』なんて言われますよね。人間を部分に分解して理解しようとする西洋近代医学との違いを強調するためです。でも、17世紀以前は西洋医学もホリスティックだったんですよ。ハーブ療法はその末裔でしょうね。英国ではメディカルハーブの公的資格もまだあります。」
ではその体の全体を見るもともとの西洋医療とは、具体的にどのような考えが基本になっていたのでしょうか。
「人間には4つの体液が流れていると考えられていました。黄胆汁、血液、粘液、黒胆汁です。黄胆汁は火、血液は空気、粘液は水、黒胆汁は土という四大元素に対応します。で、この4つのバランスが崩れると病気になると考えられていました。そしてこの4元素は占星術の星と対応する。たとえば、土星が働き過ぎると黒胆汁が過多になり、憂鬱、冷えの病気が起こる。そこで、体を温めるハーブが必要、ということになるのです。ちなみに黒胆汁は『メランコリア』。憂鬱な気分と黒胆汁は同じ言葉です。」
体をあたためるには、火の星、木星、太陽、火星に関連するハーブがいいといういことになります。カモミール、ローズマリー、ジンジャー、ガーリック、チリペッパー。…
「現代人はジンジャーが体を温めるということをもう経験的に知っていますが、当時の人は最初はわからないですよね。ジンジャーそのものは熱くないのに、体に入れることによって熱くなる。ジンジャーに熱が隠れているというふうに思ったようです。このようにして、病気をハーブをとることで治すということが始まっていきました。ノストラダムスは、ペストをばらの丸薬で治そうとしたという記述も残っています。そういったハーブの効果を、17世紀英国のカルペパーという人は『ハーブ大全』という著書にまとめました。この本は300年、一度も絶版になっていません!」。