一方で香りは宗教的なものとしても大事にされてきました。
「世界で最初のクリスマスプレゼントは、イエス・キリストがベツレヘムの馬小屋で生まれたとき、東方の三博士がもっていった乳香と没薬と黄金でしたよね」
東方の三博士(マギ)は、新共同訳では「占星術の学者」とちゃんと訳されてます。どこで救世主が生まれたのかを、3人は星を頼りに見つけます。
「その星は、木星と土星が会合したものだったと伝統的に言われています。20年に1度あるのですが」
乳香はカンラン科スウェリア属の樹木から分泌される樹脂でフランキンセンス、没薬は熱帯産のカンラン科の低木、コミフォラから取られる樹脂で、ミルラと呼ばれています。
どちらも2000年前から薫香と薬効が認められていたということ。しかもこの世を救うというもっとも高貴で重要な人にプレゼントされたのですから、香りというものがいかに大事にされていたかが想像できます。
香りと星の深い結びつき。さて、2020年はどんな年になり、どんな香りが幸運を授けてくれるのでしょうか。
「山羊座に幸運の木星が入ります。山羊座は地の星座ですから、ウッディな香りがいいかもしれませんね。特に冬でも緑を失わない針葉樹。サイプレス、パイン(松)、シダー、もみの木、ひのき」
もうひとつ、来年は人類にとって大きな変わり目の年になるそう。
「占星術では、2020年は200年単位の節目なのです。過去200年は土の時代でした。土の時代の終焉としては、今まであった権威のようなものがあちらこちらで崩れてきていますね。ここから風の時代になります。仮想通貨、AIなど、インテリジェンスの変化が確かに訪れてきていますね。知性、自由、インテリジェンスの時代だと、期待を込めて言っておきましょう」
その風の時代に、鏡さんはこれからの占星術をどんなふうに表現していかれるのでしょう。
「占星術に関してもネットでいろんな情報がありますが、伝統や歴史といったものにもっと注目してもらえるといいなと思います。占星術は今日本にある占いとは違うものです。何か将来起こることを当てるというよりは、中心にあるものを隠すことをしてきた学問なのです。僕はconsiderという単語が好きです。これは本来、con=with,sider=star。つまり、星とともに、という意味なのです。人間はひとつの宇宙。そして人生もひとつの宇宙。そういう感覚を大事にしていきたいと思っています」
いつも星とともに。鏡さんの探究と挑戦は、氾濫した情報のなかに真実を求める時代に、さらに注目されていくことでしょう。
⚫︎参考文献 『占星医術とハーブ学の世界』グレアム・トービン著、鏡リュウジ監訳(原書房)
https://www.amazon.co.jp/dp/4562049847/
⚫︎鏡リュウジ公式サイト
http://ryuji.tv/
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 上平庸文