今、日本で一番面白い料理人と呼び声の高い、星のや東京の料理長・浜田統之さん。フランス・リヨンで2年に1度開催される料理コンクール「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」の2013年大会で、日本人初の総合3位、魚料理では1位の得点をとった浜田さんが、今、星のや東京の「Nipponキュイジーヌ」で、魚だけのフルコースに挑み続けています。
料理と香りの絶対的な関係。本当の美味への追求をやめない浜田さんの熱い言葉を聴きました。
筆者は6年前に浜田統之さんの料理を軽井沢ホテルブレストンコートのフレンチレストラン「ユカワタン」でいただいたことがあります。そのとき、最初から驚いたのが、6つの丸い石の上に盛られた美しいアミューズでした。同じテーブルにいた客が石ごと食べようとして止められたほど、それは完璧に一体した美しさでそこにあったのです。
「Nipponキュイジーヌ」で、浜田さんはそれを「五つの意思」とし、酸・塩・苦・辛・甘の五味を表現しています。なんと器となる石の温度も料理によって使い分けているのです。
「二つ目の石の上のきのこのスープは、口の中に入れたらはじけてスープになるようになっています」
かますのルーロー、タルタル。海老のメルゲーズ。さんまとじゃがいものコロッケ、春菊の衣。ハタハタを赤ワインで煮たものが入っている百合根饅頭の柿。
どの料理もフランス料理と日本料理の繊細な技を組み合わせたような技が光ります。
しかしなぜ、浜田さんは魚だけのフルコースにこだわったのでしょうか。
「海外から日本を見たときに、一番誇れるのは海の資源だなと思ったのです。そういえば寿司もてんぷらも、魚が主役です。またその魚の処理の仕方、食べ方も、日本はとても良い技術があります。海外のあちらこちらで漁船を見せてもらったことがあるのですが、氷も積んでいないし、魚の扱いは日本に比べれば雑なのです。だいだい、寿司を食べた後にステーキを食べたいとは思わないでしょう?」
魚だけでやっていく。もちろん、最初は反対意見も多かったようです。
「3年半やってきて『どうしても肉が食べたい』と言われたのは一組だけです。
そのときは肉を出しましたよ。でもベーコンが欲しいなと思ったら、鮪の皮を燻製にしたり。僕はあるドイツの建築家が標語のように使っていたLess is moreという言葉が好きなのです。制限があるほうが、より本質に近づけるのではないかと思っています」
浜田さんが使う魚はいわゆるブランド化されたものではなく、その産地のみで消費されていたような魚がほとんどです。日の目を見なかった魚の美味しさに注目し、これまで捨てられていた部位も技術の高い調理によって絶品に変えてしまいます。
地域の魚と同様、浜田さんは森や山で自然に育った山菜や野菜、きのこなども大切に扱っています。
「軽井沢のユカワタンにいた時代から、畑に行って何人分の人参、という感じで引っこ抜いてきて調理するというスタイルでした。まったく同じ形のものなんて揃わないですよ。東京に来て、大きな市場に何度も足を運びましたが、同じ形のものが揃っていました。それは不思議なことなのです。じゃ、伝統野菜を仕入れてほしいと言ったら、それはできないと言われた。だからもう、現地から送ってもらうことにしました。天然の野草やきのこ、山菜は達人にとってきてもらいます。
基本は、縄文時代から食べられてきたもの、と思っています」
長野、新潟、山形。今も自ら畑に出向くことも多いそうです。
「フランス料理をやるならフランスにいるのが一番だと思いますし。バターそのものが違いますからね。日本でイタリア野菜の種をまいてもやっぱり同じようには育ちません。もともと日本にあったものがやっぱり一番だと思います」。