素材にこだわることが無限の味の可能性を引き出す。浜田さんの思いはシンプルですが、簡単に真似できることではありません。そんな唯一無二の料理人である彼は、料理の香りにも強い思いをもっていました。
「料理が供されたとき、最初に感じるのが視覚と嗅覚です。そこで7〜8割決まってしまいます。味は後の2〜3割です。しかも香りは一瞬で脳神経に届きます。そこで料理の骨格が決まってしまうと言ってもいいでしょう。もちろん、コースのなかの流れで考える必要がありますね。ハーブも使いますし、きのこも使いますから、食材本来がもっている香りをとにかく生かすようにと調理しています」
煮出す。最後にふりかける。…素材によって、香りの出し方も様々なようです。
「くろもじ、寒紅梅など、山の木の枝をお茶としてお出ししたりもしています。
また、香りの良い木を炭に入れて燻製にしたり。春はウワミズザクラの実を酢で漬け込んで、ベアルネーズソースにしたり。ウワミズザクラは蕾のときが一番香るのですが、実はまた赤くなって香ります」
山の香りの話をするときの浜田さんは、なんとも楽しそうな笑顔になりました。
季節ごとの木々の香り、花や実の香りは、知られざる日本の宝物なのでしょう。
素のままの食材とともに生きている浜田さんは、これからの食についても真剣に思いを馳せます。
「各地にそこのおばあちゃんしかもっていない野菜の種とかがあるのですよ。村で伝わる種とか。そいういうものは後継者がいないとなくなってしまうから、ちゃんとフィーチャーしていきたいと思います」
おりしも「サスティナブル」という言葉が食の世界でも語られる時代です。浜田さんは鳥取県・境港で生まれ育ちました。漁業を身近に感じてきた目線にはリアリティがこもっているのです。
「雑魚は40%は海の上に捨てられてしまうという現実がある。そういう魚の価値を見出し、美味しく食べられる調理の仕方を提案していくのも、僕らの仕事としてしっかり残していきたいと思っています。たとえばそういういろんな魚を煮詰めて、フランス料理でいうスープ・ド・ポワソンにするとすごく美味しい。そこにスパイスを入れると絶品のスープカレーができます」
東京から、世界へ。浜田さんの美味なる発信がぎゅっと詰まった料理は、まだ始まったばかりなのかもしれません。
星のや東京
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ダイニング
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(宿泊者限定)
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 ヒダキトモコ
https://hidaki.weebly.com/