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今かぐわしき人々 第65回
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    第65回:加藤巍山さん(仏師、彫刻家)

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仏像を彫る人を仏師、と呼びます。加藤巍山さんは、仏師であり、仏像ではないものを手がける彫刻家でもあります。宗教を超えた「祈り」を突き詰めようとする素顔はストイックであり、また青い炎が燃えているような情熱を湛えています。

《1》「示現」。祈らざるを得ない気持ちになる作品

2019年11月末から12月中旬にかけて、日本橋高島屋美術画廊ギャラリーXで個展「示現」を開催した加藤巍山さん。
そのオープニング・レセプションには、様々なジャンルからアーティストが来場しました。『千の風に乗って』を歌うシンガーであり、彫刻家の顔を持つ秋川雅史さんも駆けつけ、作品の話で盛り上がりました。
「示現」とは、どういう意味なのか。巍山さんは語ります。

「誰かが心から欲するもの、本当に必要なものを神仏が具現化してこの世に現すもの、とでもいいましょうか。たとえば山を歩いていて喉が乾いて死にそうな人の前にせせらぎが現れるように」

今回、巍山さんはその「示現」という言葉をテーマにかかげ、そんな思いで作品を彫りました。

「様々な宗教、時代を超えて、祈らざるを得ない人々の想いを込めました」

ひとつずつの像は、仏像のようであり、仏像ではない。けれども、その前に立つと、深く心にしみこんで、しらずしらずのうちに、手を合わせたい気持ちになっているのです。会場では、その像を見つめる人々の穏やかになっていく表情が印象的でした。

加藤巍山さん

《2》ギターを鑿(のみ)に持ち替えて。24歳で仏師に弟子入り

 さて、仏師というのはどういう修行を経てなるものなのでしょうか。厳しい修行が必要かと想像しますが、巍山さんの場合は、24歳のとき、高村光雲の流れを汲む仏師・岩松拾文師に弟子入りしたそうです。

「実はそれまで、ミュージシャンをしていたのです。ギターを弾いていて、プロとしてスタジオミュージシャンもしていました。ロックから入ってジャズ、ダンスミュージック、インスト…と、ひと通りやりました。でも僕は自分を追い込むタイプで、技巧に凝るうちにどんどん自分を追い込んで、あるとき、うつ状態になってしまったのです。どんな音楽も好きだったし、技術的にはある程度できちゃうから、方向性を失ったのかもしれません」

そんなあるとき、衝撃的な演奏家に出会います。

「新宿の厚生年金会館で、フラメンコギタリストのパコデルシアの演奏を聴いて、雷が落ちたような衝撃を受けました。いわゆる民族音楽です。今まで自分は何をやってきたんだろうと。それで、音楽を辞めてひきこもってしまいました。一人で鎌倉をふらふらしたり、自転車で父親の故郷である長崎に行きました。長崎には2歳のときに亡くなった父親の墓がありました。でも自転車で行くことで何か得られるかと思ったけど、何も得なかった。ただ漕いだだけ。でもそれがよかったのです」

父親の早逝。そこから月命日には寺に通ったこと。幼い頃から触れてきた日本の文化。そんなすべてが彼のなかで仏像へと向かわせていったようです。

「それから師匠と出会い、24歳は遅いと言われながらも、弟子入りしました。まだ徒弟制度の厳しい世界で自分の意志とは関係なく、彫れと言われるがままに彫る作業。硬い木をぎゅーっと抑えていると、マメもできるし、力を入れすぎてだんだん気分が悪くなってくる。そうしたら指突っ込んで吐いてきて、また彫る。でもそれは良い経験でした」

彼をそうまでしても彫ることに向かわせたのは、清らかな空気への憧れでした。

「G7だったかな、各国の首脳が伊勢神宮に参拝して『清らかな空気を感じた』と言っていたでしょう。人間って国とか宗教に関わらず、その気配がわかるのですよね。そういう清らかな空気というものが間違いなくある。僕はそれを信じてひと鑿、ひと鑿、彫っているのです。言葉にしてしまうと軽いけれど、永遠に振動しているその空気を作りだすために」

その清らかな空気のなかに、人間の尊厳があるというのです。

「私は人間の根源的なものを大切にしています。人間という野生とAIのようなテクノロジーの垣根も低くなっているけれど、人間が人間たりうる尊厳は必要だと思う。そこにはこれまで、宗教の役割が大きかったのですが、今は宗教もその役割を模索し始めている気がします。私は仏師であり、彫刻家であるという微妙な立場にいて、何かそこに今だからこそ役割があるのではないかと思うのです」

仏像には、1000年以上守られている「こうでなくてはならない」というルールがあるのだそうです。天台宗比叡山で得度もしている巍山さんは、仏像と彫刻作品の間にあるものを作ろうとしています。

「祈らざるを得ない。手を合わせざるを得ないというところへフォーカスしたい。
すべてのひとが感じる清らかな気配を作りたい。なぜならすべての人は孤独、不安、死と向き合っているのですから。人間が存在する限り、それは消えないし、物質主義や環境破壊をまったく排除することはもうできません。でもどこかで歪みや行き詰まりを感じているのも事実です。その根源のところで想いに輪郭を与えられるようにと彫っています」。

加藤巍山さん

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