甘いマスクのアイドルから、ダンディな大人の俳優へと進化を遂げてきた加納竜さん。映画『愛と誠・完結編』で俳優として開眼したという加納さんが、これまで演じてきた経験と、今、それを教える立場で思うことなど、笑顔で語っていただきました。
加納竜さんはもともと、アイドル歌手としてデビューしました。その甘いマスクで、男性化粧品のCMにも登場し、人気を博していました。
「ただ当時は西城秀樹、野口五郎、郷ひろみという御三家が圧倒的人気でね。歌ではそこまではいけないなあと正直思いました。20歳のときに映画『愛と誠・完結編』で主役に抜擢されて、それが役者でやっていこうと思う大きな転機となりましたね」
『愛と誠』は、梶原一騎原作の劇画で、不良少年・太賀誠と財閥の娘・早乙女愛の純愛が激しい学生たちの闘争とともに描かれ、当時人気を博しました。
「けっこう大変な撮影でした。でも太賀誠が僕に降臨したんですよ。いや、それくらいにはまった。初めて経験する感覚で、ギアの入れ方がわかったという感じでした。ここまでギアを入れたらもう一人の自分、違う自分が出てくるんだ、と。
ここまでやればできるんだ、というね。若さもあったのでしょうね。今はもう、ギアも磨耗してきたクラシックカーみたいだけど(笑)」
その後、加納さんはドラマで正義漢を演じることが増えていきます。『華麗なる刑事』を始め『鉄道公安官』、『西部警察』など、欠かせない存在に。
「正義漢的な顔をしていたのでしょうね。とことんやりましたね。僕は広島の出身で親父は公務員。だから根っからの極悪人みたいなことはできないのかもしれません。ただ、30代は2時間ドラマが全盛になってきて、そこで悪役も来ました。
そうは見えなかったけど、犯人だった、というようなね。悪役は楽しいですよ。
相手に精神的にダメージを与えていくような悪役もあるし。ただ、やっぱり本質的な極悪はできないんだよなあ」
俳優は最終的にはその人の本質が出る。それはある有名な女優さんにも言われたことがあります。根が真面目な加納さんには悪くなりきるのは至難の技だったようです。他に難しかった役ももう一つありました。
「一番難しかったのは、商人のぼんぼんで、遊び人という役。そのほわんとした感じは、本当に根っからお金持ちの人にしかできないような気がしますね」。