現在、大阪芸術大学短期大学で、加納さんは演技を教える教授でもあります。
「19,20歳の若い人たちを教えています。でもこれが大変なんですよ。感情をトップ・ギアに入れたことがない子たちなのです。むしろ感情を殺すことを教えられて生きてきたのかな。喜怒哀楽をリミットまでもっていったことがないのでしょう。ギアチェンジがうまくいかなくても、トップギアになれば、なんとかなるものです。だから、芝居が静かです。でもね、大阪のおばちゃんはリミットがないじゃないですか(笑)。あのやりとりにコミュニケーションの原点があると思うのですよ」
そんなおとなしい生徒たちを、加納さんは一生懸命導きます。
「AIが芝居しているんじゃないからね。感情の受け渡しをしよう、と。こちらが出せば、お客さんも拾ってくれる。まずは挨拶からだね」
しかし、そんな加納さんが逆におとなしくなってしまうシーンも、最近あったようで。…
「僕には3歳と0歳の息子がいるのですが、プリスクールに行くと、20〜30代くらいのおかあさんばっかりでね。生徒にはコミュニケーションしろというものの、できなくてさ(笑)。気後れしていた自分がいました。でも、挨拶ができるようになったら、ちょっとずつ会話ができるものなんですよね」
自分のちょっと恥ずかしい経験も包み隠さない加納先生は、きっと生徒たちの人気者なのでしょう。
加納さんは強い洋風な香りは苦手だと言います。
「広島の田舎の出で、周りは田んぼばかりでしたから。昔ながらの日本のお香の香りがいいですね。昔のある時期、ニナリッチとかゲランとか、濃厚な香水がはやったことがありましたが、僕は苦手でしたね。香りはシックなほうがいい。京都の撮影で神社や仏閣の静かなところで漂ってくるお香の香りや、美しい庭に一歩足を踏み入れたとき凛とした香り。気配。そういうものが一番いい。それで、息子にも凛という名前をつけたほどです」
幼な子とのかけがえのない時間が、今の加納さんのもっとも幸せな時間。
「これから20年。凛とした仕事ができるのはそれくらいかな。だから、家族と一緒に共有する時間を大事にしたいですね。今までの60年は駆け足だった。でも、これからの20年は同じ駆け足でも、子どもたちと一緒に走っていきたいですね」
穏やかななかにも、凛としたものを一本漂わせて。加納さんが培ってきたものは、きっとこれから仰ぎ見る人を育てていくことでしょう。
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取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
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撮影 ヒダキトモコ
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