大河ドラマ『元禄繚乱』でTVドラマデビュー、稀代の演出家、故・蜷川幸雄さんの舞台などでも活躍した経験をもつ俳優の内田滋さん。何事も独学で極めてきた彼が、今、飲食店経営でも才能を発揮しつつあります。2軒目はなんとカレー屋さん。俳優業と経営に共通するもの、両立する意味とは。
端正な面立ち、強い瞳。俳優というオーラがそこはかとなく漂う内田滋さんですが、最初は絵やデザインを学んでいたそうです。
「大阪の高校で、僕はデザインを勉強していました。イラストレーターとか漫画家になりたかったのです。でもそこにちょっと葛藤がありました。たとえば、コカコーラの瓶にあるあのロゴ。誰もが知っているけれど、誰が描いたものなのか、ほとんど知っている人はいません。絵を描いてこつこつ個展で売っても、有名になれるかどうかはわからない。漫画家も相当漫画が売れれば名声も評価も得られますが、なかなか簡単になれるものではないですよね」
プロとしてちゃんと稼ぐこと。それなりに名を成すこと。10代の頃から、内田さんはそこまで考えていたのです。やがて、高校を卒業し、大手印刷会社の関西支社に就職。そこでレタッチ部に配属されました。
「いい会社だったのですが、僕自身が30年後もこの生活をしているという自分が想像できなくて・・・(笑)」
そこで他に何が好きだったかを振り返ったとき、気づいたのがドラマでした。
「学生時代からちょうどトレンディ・ドラマのブームで、だいたい、1週間に10本くらい録画して、週末にまとめて見たりしていたのです。それで、舞台のオーディションを受けてみたら合格して、舞台「毛皮のマリー」でデビュー。
それから、とんとん拍子に大河ドラマ『元禄繚乱』への出演も決まりました」
親や周囲には内緒で、オーディションを受けていたそう。
「家でぶつぶつ一人で練習し始めて、親は『この子、おかしくなったのでは』と思ったかもしれません。会社にも何も言わず辞めました。結局、初舞台をやるときに、雑誌の『ぴあ』に写真が載ってしまって大騒ぎになったそうです。『おい、内田がぴあに出ているぞ』と(笑)」
あれよあれよという間に、内田さんは俳優として舞台に映像にと活躍の場を広げていきました。
しかし演技の勉強をしないままにいくつもの大きなオーディションに合格していった内田さんには、才能があったとしか言いようがありません。
「うーん… なんとなく、できるんじゃないかな、と思ったんです。もちろん、いっぱい勉強しましたが。料理でもね、テレビで見ていて、ああ、これできるな、と思ったら、できるじゃないですか」。