このほど総勢29人のミュージシャンと作り上げた15曲入りアルバム『66』をリリースした庄野真代さん。デビューして5枚目のシングル『飛んでイスタンブール』の大ヒットは1978年のことでしたが、自由で爽やかな歌声は健在です。ご自身が経営される下北沢のカフェ『音倉』で、お話を伺いました。
太田裕美さん、丸山圭子さん、杉真理さん…。自作の曲以外に、作詞作曲、アレンジ、コーラスなど、参加したミュージシャンは総勢29人の錚々たるメンバー。
庄野真代さんの新しいアルバム『66』は、まるで一枚のCDにライブパーティーを閉じ込めたような楽しさに満ちています。
「『66』は今年66歳になるので。歩いてきた道。これからの道。道といえば『ルート66』という曲もあったな、と。私と同い年かそれに近いアーティストが集まって、みんなで一緒に奏でてみようと」
こだわったのは、1970年代後半頃のレコードの作りかた。
「今は小さな部屋でも一人でPCで音楽を作ることができる時代ですが、あえて大きなスタジオでみんなで目と目を合わせ、呼吸を合わせての音作りをしたかった。
音と気持ちが空間を伝わって鳴っているというサウンドにしたかったのです。ご一緒してくれたミュージシャンたちも『やっぱりこういうの、楽しいね』って言ってくれました」
1枚のCDに異例の15曲というのが驚きです。
「声をかけたら、結果的にみなさんOKをしてくださって。新型コロナ感染予防の自粛期間中で、ライブなどできなかった時期だったのもあり、本来はとてもスケジュールが合わないキャリアも実力もある方達が奇跡的に集まってくださった。だからできるだけ多く曲を集めてとプロデューサーは言っていましたが、そこから10曲ぐらいにするのかなと思っていたら、全部入れちゃおうということになりました。結果的に収録して、曲の隙間の空白も含めると、66分になった、というのもなんだか不思議なことでした」
曲作りのテーマは「今の庄野が歌ったらいいと思う曲」だったのだそう。確かに、生き方、旅、愛の形と、大人を感じる言葉が並んでいます。曲はポップだったり、ジャジーだったり、ブルージーだったり、庄野さんのキャリアを十二分に感じさせるバラエティの豊かさです。
「バラバラながらも統一感が出ましたね。今はみんなが配信で1曲ずつ好きな曲を拾って聴くけれど、アルバムを通してストーリーがあるということにもこだわりました。この曲の次にこの曲があって、世界がぱっと変わるとか。その後の沈黙にもストーリーがあるとか。そのスペース感のなかでこそ、伝える私たちも聴いてくださる方たちも自由に心を泳がせることができるのではないかしら」
確かに聴いていると、シンプルな言葉にも深い背景を想像できたり、我が身を振り返ったりすることができます。
「ハッピーなことだけではなく、うまく解決しなかった心を整理できるような音楽、になれていたらいいな」
庄野さんの声は軽やかだけど、隣に腰掛けている人のように近く聴こえてくるから不思議です。