豊原功補さんと小泉今日子さんプロデュースによる映画『ソワレ』(外山文治監督)で、音楽を担当した朝岡さやかさん。
クラシックから映画音楽まで、そのジャンルレスな活躍はピアニストとして作曲家として新たな立ち位置を築いている一人です。
ご家族と自然を楽しみながら過ごす浜松の新居で、これまでとこれからについて、お話を伺いました。
村上虹郎さんと芋生悠さん演技がしんしんと胸に響く映画『ソワレ』。父親からの性的虐待を受けたヒロインと、彼女を想う青年との不器用な逃避行が、和歌山県を舞台に描かれていきます。
底にあるテーマは重く暗いですが、見終わったあとは、なぜか遠いトンネルの先の小さな光を見るような気持ちになれます。それを希望と言っていいのかどうかは定かではないですが。
朝岡さやかさんはこの映画で、音楽を担当しました。
チェロの運命を感じさせる響き、ピアノの光が転がるような旋律。
しかし、けっして音楽が前に出すぎることはなく、むしろ登場人物たちの影のように抑えめに流れています。
朝岡さんは、外山作品に何度か参加しています。
「外山監督とは、7年ぐらい前から仕事をご一緒しています。映画音楽も、CMも。でも今までの監督の作品はほのぼのとしたものだったのです。ところが、今回は全体にずしんとくる、重たさがありますよね。いつもおっしゃるのですが、映画音楽は、音楽が先行して泣かせたり、怖がらせたり誘導していってしまうのは嫌だと。まずセリフや映像で心を動かして、音楽が寄り添っていく。そういう新しい生命体を作ろうと」
最初に作曲したのは、ヒロインの女性がいろんなシーンで口ずさむ、鼻歌、でした。
「重要なシーンで、ヒロインが鼻歌を歌うのです。そのモチーフを作ることから始めました。その頃はまだ私も東京に住んでいましたので、夕方、街中を散歩しながら曲を作りました。そしてそのメロディを鼻歌にして芋生さんに歌ってもらうことになっていたのですが、彼女はそこがすごい方で、場面場面に合うようにアドリブで崩して歌っていたのです。素晴らしい女優さんだと思いましたね」
監督と話し合い、チェロを全編に入れることに。
「脚本を読んでチェロが良いのではとご提案しました。2時間のなかで10曲ぐらいかな。見ている人は2~3曲という印象かもしれません。つくってもつくっても違う、と言われることもあり、10案ぐらい出したところもあります。プロデューサーの豊原功補さんも、ご自身で音楽をされていることもあり、とても耳が良い方で、ある場面でピアノのソロで弾くところを『ウーリッツアーが合うかも』などと提案してくださったりしました。小泉今日子さんは女性らしい感性で、いろいろとサポートしてくださいました」
細かな作業が多そうですが、朝岡さんは映画音楽を作るのは楽しいと言います。
「たとえばピアノのソロコンサートならひたすら一人で練習します。でも映画は、まず全体でみんなが目指すイメージがあって、チームワークでつくっていく。叩き壊したり、付け加えたり。一人でピアノをやっているだけでは感じられないことを感じられるのが楽しいですね」。