男性的な力強い文字から、優美な文字、絵のようにも見える楽しげな文字まで。様々な独自の書体で書の世界を追求する中澤希水さん。
この夏、生まれ故郷の浜松に居を構え、静かに世界を見据えるその活動を追いました。
書家・中澤希水さんは、ご両親も書家という家庭に生まれました。お父様は静岡、お母様は佐賀の出身。さぞや英才教育を受けたのではと想像しますが、ご本人は首を振ります。
「英才教育というよりは、生活の一部として書があったという感じでした。だから、ごくごく自然に筆をとるようになったのです。気づくと、日に何百枚も自然に書いていましたね。高校では書道部に入り、書道のプロフェッショナルを志す人たちが集まる大学へと進学しました」
その大学とは、大東文化大学。設備も教授陣も最高に整っていました。
「18歳まで親父のもとにいましたが、大学に行ってからは中学くらいの頃からこの人の書が好きだと思っていた、師匠のところへ入りました。当時77歳。弟子をとっていないとのことでしたが、何度か通いました。『弟子にしてください』『無理です』『どうかお願いします』という感じですね。それで幸い、入れてもらえて、僕が30歳のときに亡くなったのですが。最晩年を一番近くにいさせていただきました。師匠がほしいものは呼吸や目配せでさっと差し出せるくらいにならなくてはと思い、頑張りました」
そんな時代を経ておられるからでしょうか。中澤さんは、とても気持ちのよい気遣いをしてくださる方。相手が「次に何をしようとしているか。そのために何をサポートすればよいか」を、瞬時に判断できるような方です。