最近は踊っているよりも、作っている時間が長くなってきたという長谷川さん。様々なクリエイターとコラボレーションすることも増えました。
「人とコラボするときに大事にしていることは、それぞれの表現が融合したときに、お互いの良いところを引き出せるか、ということ。自分だけで作っているものじゃないという感覚は、以前はストレスになったこともあったけれど、それを通り抜けたときに表現は広がるという価値が見出せたんです」
2020年は梅田芸術劇場でミュージカル『NINE』にDAZZLEの9人のメンバーが全員参加。主演の城田優さんが受賞するなど話題作となりました。
「演出家の藤田俊太郎さんとは当初はかなり意見の違うところもあり、僕がこう、と思ったことが『違う』と言われることもありました。そこで演出家の指示に従いながらも、自身の振付師としての感覚を主張することも役目だなと思って。この舞台を経験したことで、僕たちも幅広くなったと思います」
4月からはイマーシブシアターをお台場ヴィーナスフォートで常設公演することも決まっています。
「表現は生でリアルに見てもらうのが一番だと思います。でもそれが難しい時節になって、知恵を働かせて映像作品として見せていくことも必要だと感じましたし、そこからアイデアが生まれ、新しい方向も見えてきました。今後、普通に舞台ができるようになったとき、この新しい方向性がリアルな舞台をさらに広げたり深めたりするきっかけになればいいなと思います」
視聴者の五感に訴える没入型体験演劇、イマーシブシアター。そこでは、舞台に「香り」を取り入れることもあるそう。
「2016年に上演した舞台作品『鱗人輪舞(リンド・ロンド』の時は、”大きな壁が倒れるとその裏側に花畑ができる”という演出をしたのですが、バタンと倒れたところに花の香りをつけていて前列半分位までの人には香ったようです。4月からの公演も、花を使演出を入れようと思っているので、そういうことができないかな。イマーシブは没入感という意味なので、カビ臭いと、ああやばいところへきちゃったとか、医薬品ぽい匂いがすると病院に来たようで緊張するとか、人の記憶や感情をかき立てますからね」
今年1月、障害を持ったダンサーと協働し、製作した舞台には、耳の不自由な女性ダンサーも登場しました。
「音が聴こえないということは、踊り出すための音楽によるきっかけがわからないんですね。だけど、あからさまに目の前でカウントを出すのも嫌だった。だから彼女の分身というキャラクターを作って、あくまで表現としてきっかけを出すことにしました。この演出は本当に挑戦しがいがありましたし、彼女の努力も相まって、身体的なハンディキャップを感じさせない舞台を作ることができました」
観客も演者もスタッフも感動の涙を流した舞台がそこにはありました。
「ダンサーとしてまだまだ踊っていたい気持ちもありますが、こうして作品を作ることの実感は素晴らしいものだと感じました。求められていきたいですね」