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  • 第1話 本日のお客様への料理『ジュエリー・ペンネ』

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🥂3glass

 幸は、ペンネを50g、沸騰して少なめに塩を入れた湯の中にいれた。
 少しかき混ぜる。湯の中で、ペンネが舞う。
 茹で時間の間に、小さなフライパンでポロネギを炒める。しっかり目に。
 少し焦げたポロねぎの香ばしい香りが立ちのぼる。
 そこへマヨネーズ、白ワイン、牡蠣醤油をちょっぴり入れ、茹で汁も加えた。
 ペンネが茹で上がるタイマーが鳴る。
 それを入れ、バタ、明太子を入れて混ぜる。
 刻んだイタリアンパセリ、パルミジャーノレッジャーノをふりかけ、
 最後に冷蔵庫から、とっておきの瓶詰めを取り出した。

「あのね、そっち、カウンターが食べづらいから、ここへいらして」

 奥のカウンターは、なるほど食事をするにはちょうど良い高さだった。

「あ、はい」

 いつの間にかペパーミントグリーンのテーブルマットの上にフォークがセッティングされていた。
 幸はまず出来上がったペンネの皿を置いた。

「まだよ、まだ」

 まだ湯気の立つペンネの上に、瓶詰めのいくらをスプーンですくって散りばめていく。

「うわー。きれい。ジュエリーみたい。いただきまーす」

「召し上がれ」

 幸は黙って、美味しい美味しい、とペンネを食べる凛花から少し離れて、見守った。
 薄っぺらな男から思いのないジュエリーをもらっても意味がないのよ、と心の中で呟いて、何も言わずに、微笑んでいた。

「あの、今度こそ、白ワイン、お願いします」

 凛花はそう言って、まだ一つずつペンネをフォークでつついている。

「はあい」

 幸はやっと表情の緩んできた凛花のために、ソアヴェを抜いた。
 白ワインのグラスを手に取り、トクトク、と注いだ。
 きらきらと、やや金色がかったようなワインが輝く。フレッシュで、酸味が爽やかで。
 それは若さに似ていると思った。
 この娘はまた恋をして、きっと彼のことを忘れるだろうな。

「新しい年だもの。新しい恋に乾杯」

 凛花は唇をキュッと結ぶと、幸の顔を見た。そして、納得したように頷いた。

「新しい恋に乾杯」

 外は初詣帰りの人たちがまばらに通るくらいだ。この店の窓の明かりが、街のストーブみたいに、ぽっとあったかだった。

筆者 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1

イラスト サイトウマサミツ
イラストレーター。雑誌、パッケージ、室内装飾画、ホスピタルアートなど、手描きでシンプルな線で描く絵は、街の至る所を彩っている。
手描き制作は愛知医大新病院、帝京医大溝の口病院の小児科フロアなど。
絵本に『はだしになっちゃえ』『くりくりくりひろい』(福音館書店)など多数。
書籍イラストレーションに『ラジオ深夜便〜珠玉のことば〜100のメッセージ』など。
https://www.instagram.com/masamitsusaitou/?hl=ja

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