それから2週間ほどした頃だった。
今度はO組の種岡がやってきた。
種岡はいくつかある営業部の部長で、どこからどう金が回るのか、ひどく羽振りが良さそうだった。
イタリアものらしい肩のいかったスーツのズボンはタックが入っているが、太っているのでかなり広がっていた。ヴェルサーチの派手なネクタイは、映画の『プリティ・ウーマン』で、娼婦だったジュリア・ロバーツが実業家のリチャード・ギアに買ってあげたものに似ていた。
ポケットから出したパーラメントを太い指に挟んだので、幸は火をつけた。
種岡は眉を顰めて、煙を吐いた。ディップで固めた前髪が3本シワの入った額にちょろりと下がっている。
「ロックにして」
「はい」
ヒトミがボトルと氷のセットを持ってきて、一緒に座った。
「お久しぶりですね。この間、部下の方、来てはりましたよ」
「誰や」
種岡はあまり元気がなかった。そういえば、一人でやってくるのも珍しかった。
「碓井さん」
幸が何気なく言うと、種岡の顔色がみるみる変わった。
「いつや。あいつ、いつ来たんや」
「2週間ほど前ですかね」
「…アホな」
グラスを持つ種岡の手が少し震えていた。
「どないしはったんですか」
「3週間前に死んだがな。ママ、1週間間違えてるやろ!」
「そ、そうですかね… 私、うっかりしてましたか」
幸は言葉を飲み込んで、上目遣いに隣にいるヒトミを見た。ヒトミは固まった表情で、眼球だけを幸の方に向け、小さく首を振った。