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  • 第9話 本日のお客様への料理『鯵のなめろう』

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🥂Glass 2

 それから2週間ほどした頃だった。
 今度はO組の種岡がやってきた。
 種岡はいくつかある営業部の部長で、どこからどう金が回るのか、ひどく羽振りが良さそうだった。
 イタリアものらしい肩のいかったスーツのズボンはタックが入っているが、太っているのでかなり広がっていた。ヴェルサーチの派手なネクタイは、映画の『プリティ・ウーマン』で、娼婦だったジュリア・ロバーツが実業家のリチャード・ギアに買ってあげたものに似ていた。
 ポケットから出したパーラメントを太い指に挟んだので、幸は火をつけた。
 種岡は眉を顰めて、煙を吐いた。ディップで固めた前髪が3本シワの入った額にちょろりと下がっている。

「ロックにして」

「はい」

 ヒトミがボトルと氷のセットを持ってきて、一緒に座った。

「お久しぶりですね。この間、部下の方、来てはりましたよ」

「誰や」

 種岡はあまり元気がなかった。そういえば、一人でやってくるのも珍しかった。

「碓井さん」

 幸が何気なく言うと、種岡の顔色がみるみる変わった。

「いつや。あいつ、いつ来たんや」

「2週間ほど前ですかね」

「…アホな」

 グラスを持つ種岡の手が少し震えていた。

「どないしはったんですか」

「3週間前に死んだがな。ママ、1週間間違えてるやろ!」

「そ、そうですかね… 私、うっかりしてましたか」

 幸は言葉を飲み込んで、上目遣いに隣にいるヒトミを見た。ヒトミは固まった表情で、眼球だけを幸の方に向け、小さく首を振った。

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