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第21話 『イタリアン茄子と鶏むね肉のバジル炒め』
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  • 第21話 本日のお客様への料理『イタリアン茄子と鶏むね肉のバジル炒め』

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 9月も終わり、暦の上では秋だ。
 少し暑さは残るけれど、代官坂では夜はいろんな虫が鳴くようになった。
 まるで虫たちのオーケストラだ。
 そよぐ風に、少し干し草のような枯れた匂いが加わる。秋の香りは肌から沁み入ってくるようだ。

 福岡のやすこさんから、また幸に野菜が届いた。
 箱を開けると、まん丸い茄子と、色が薄めの紫で筋の入った茄子が5〜6本ずつ入っていた。青唐辛子の袋もあった。
 走り書きの手紙が添えられている。

「うちで出来たものではありませんが、近所の農家で栽培している珍しいイタリア品種の茄子を送ります。青唐辛子は直に触ると手がヒリヒリするので気をつけてください」

 なるほど、と、袋を見る。ここらあたりの本牧のスーパーで見かけるよりは細長い唐辛子だ。青柚子と塩と合わせて柚子胡椒を作りたいところだが、青柚子が高価すぎる。まあ、まずはこれをそのまま刻んで、にんにくとペペロンチーノにしてみよう。青唐辛子の辛さはスッと鼻先に抜けるような爽やかさがあり、赤唐辛子とはまた全然違う風味がある。

 新鮮な野菜は、いつも閃きをくれる。茄子は少し油と合わせると、とろっととろけるようになる。あの味がたまらない。イタリアの品種ということは、トマトやにんにく、バジルなんかとも相性がいいだろう。
 紫の縞模様を照明にかざすと、きらきらと輝いている。
 今夜は、退院した岡部良介と恭仁子の夫婦がやってくるという。ということは、学生時代の友人である佐伯洸も追いかけて姿を現すのだろう。
 このおしゃれな茄子は3人の久しぶりの再会にぴったりだと幸は思った。
 バジルの香りは、それをフレッシュに演出してくれるだろう。
 幸はプランターからバジルを摘んだ。

第21話 本日のお客様への料理『イタリアン茄子と鶏むね肉のバジル炒め』

🥂Glass 1

 夕方、店を開ける前のお香を、たく。今日はバジルやレモンの入ったお香にした。なんとなく料理との親和性にこだわってみる。
 煙が消えた頃、一度ドアを開けてみる。本当にうっすらと残り香があるくらいが、ちょうどいい。ただし、虫が多いので、すぐ閉めなくてはならない。
 閉めようと出たとき、よっ、と声がした。

「あら、洸さん」

「一番乗りかな」

 先に現れたのは佐伯だった。幸は微笑んで、奥へと迎え入れる。

「何か召し上がって待たれますか」

「そうだなあ。…でもきっと乾杯だろうから。あ、いや、良介はまだ酒は飲めないかもな」

「そうですね」

 頷いて、幸は炭酸水をグラスに入れた。
 それをひと口飲んで、佐伯はなんとなく言った。

「凛花ちゃんは幸せにやってるかな。こっちにはちっとも来ない?」

「一度、新婚旅行からお土産を持って大城さんと見えました。あっ!そういえば、洸さんに、って。忘れていたわ、ごめんなさい!」

 幸はガサゴソと棚から小さな包みを取り出し、佐伯に渡した。

 

「そんなのいいのにね。こっちこそ、演奏して彼女のママからたくさんご祝儀もらったんだよ」

「何かしら… 開けてみてくださいな」

 佐伯は包みを開けた。現れたのは、美しい蝶のレリーフのついた白いゴブレットだった。

「おお、アスティエじゃない。これは嬉しいな」

 取手がないから、お茶でもコーヒーでも、お酒を入れても良さそうだ。

「センスいいわねえ」

 幸も感慨深げに見つめた。幸へのお土産はクラシカルな銀のバターナイフだった。ひとりひとりの顔を思い浮かべながら選んだことがわかる、二人の心遣いだった。

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