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第27話『蒸しそら豆のパルミジャーノがけ』
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  • 第27話 本日のお客様への料理『蒸しそら豆のパルミジャーノがけ』

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 横浜・元町には年に2回、チャーミングセールという大きなイベントがある。
 2月と9月。通常のデパートなどのセールとはタイミングをずらしていて、季節の先行ものや、このときだけそれぞれの店舗に訪れる業者もあって、毎回、楽しみによその街からたくさんの人が押し寄せる。
 反対に地元民は元町には近寄らなくなる。いつものように落ち着いた街ではなくなるし、とにかく人、人、人というのは実際、日常の買い物には辛い。
 この辺りで長く経営する飲食店のなかには、あえてこの時期は閉めてしまうという店もある。
 しかし「ヒトサラカオル食堂」の店主、盛田幸はもともとよそ者であることを自覚していた。
 だからかえって淡々と、店を開けていた。
 それに最近は岡部恭仁子と言う助っ人もいる。

「本当、恭仁子さんがいてくれて本当に助かるわ」

 幸は心からそう思っていた。最近は「エクボの人」と常連さんも彼女を認識して、何かと話しかけたりした。

「駅からここまでもすごい人でした。なんか、いろいろ安いんですか。元町プラザの前にお野菜も売ってましたけど」

「この時だけいろいろ外からくるものもあるの。近沢レースさんのタオルのハンカチとか、そういういつもあるものがお安くなるのを狙うといいみたいよ」

「そうなんだ。平日はちょっと空いてるかな」

「そうね。平日がいいかもね」

 幸がそうアドバイスすると、恭仁子は微笑んでエクボを見せた。

第27話 本日のお客様への料理『蒸しそら豆のパルミジャーノがけ』

🥂Glass 1

 気温は低くても抜けるような青空があれば、人の心は外へと誘われる。
 元町ショッピングストリートはアーケードがなくて青天井の分、天気に人出を左右される。青空効果は満点だ。
 代官坂のハズレにも、人は流れてきた。
 見たこともない人たちが、大きな紙袋をもって小さい店を訪れる。

「いらっしゃいませ」

 幸が厨房から入り口に目をやると、また格別に大きな袋をもった50代後半と思しき男性と若い女性が立っていた。男性は白っぽいジャージの上下に黒いダウン。ゴルフ焼けであろう顔は濃かった。
 なんとも不思議なケリーバッグを細長くしたようなグレーのバッグを斜め掛けしている。
 女性は恋人なのだろうか。前髪をぱつんと切ったロングヘアに韓流風のツヤツヤメイクだ。
 席はもはや入り口付近の隅が2つあっただけだった。

「こちらでもよろしいですか」

「なんや、オバはんが二人でやってる店やな」

 大きな声の関西弁が聞こえ、若い女性が嫌な顔をした。

「大きい声でそんなこと言わないで」

「ほんまのことやん」

 男はどかっと足を広げて座り、椅子の背にもたれかかった。

 もちろん、その声はしっかりと「オバはん」と言われた二人の耳に届いていた。大阪出身の幸は特にムッとすることもなく、むしろちょっと懐かしいなと思ったりもした。最初にバンとびっくりするようなことを言う人は、むしろ意外にいい人なことも多い。大阪の言葉で言う「かます」というやつである。
 しかし恭仁子はかなり驚いた。慄きながらも、荷物を置く場所を整え、つくり笑顔で声をかけた。

「ご注文は」

「ビールある?」

「はい、瓶ですが、COEDOの鞠花とハートランドと青島がございます」

「全部緑やな。緑好きなん?」

「あ、いえ…」

 いちいち絡んでくる男に恭仁子は顔が固まっている。奥から幸が声をあげた。

「緑の瓶が好きなんですよお」

「ほんま。ほんならハートランドにするわ。一番大きいからトクやん。関西人、やろ。くくく」

 男は自分で言って自分で笑った。その感じで、幸には「悪い人ではない」とわかったが、恭仁子はまだ固まっていた。

 一緒にいた女性はまるで「関係ないです」と言わんばかりに言った。

「私はクランベリージュースください」

「かしこまりました」

 恭仁子は開放されたように厨房に駆け込んだ。

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