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  • 第27話 本日のお客様への料理『蒸しそら豆のパルミジャーノがけ』

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🥂Glass 2

 厨房にやってきた恭仁子は、幸に耳打ちした。

「なんか品のない人ですねえ。あの若いコは彼女なのかしら」

「…」

 幸は微笑んで首を振り、口もとに人差し指を立てて、しーっ、と恭仁子をたしなめた。どうあれ、お客様はお客様だとわかってほしかったのだった。

「すんませーん。なんか、食いもんある〜」

 大きな関西弁は店の空気を破壊するかのようだった。他にいた客たちが、見るともなくそちらを見た。

 幸は大きな声で返した。

「はーい。お待ちくださーい」

 そして、行ってきて、と恭仁子の背中を軽く押した。恭仁子は小さく深呼吸して、注文をとりに行った。

「何があんのん」

「今日のランチはボロネーゼのパスタか、コンビーフのトーストサンドです」

「パスタにする。おまえは」

 女性はちょっと悩んだが、同じで、と答えた。

「… トイレどこ」

「あちらになります」
 男が大股でトイレに向かうと、背を向けた恭仁子に女性がすまなさそうに言った。

「すみません、父がうるさくて」

「あ、お父様なんですね」

「はい。こっちに初めて来たんで」

 恭仁子は厨房にやってくるや否や、幸に言った。

「カップルじゃなかったです。親子ですって」

 幸はそれには答えず、すでに聞こえてきたオーダーを繰り返した。

「ボロネーゼ、二つですね」

「あ、はい」

 恭仁子は苦笑いして頷いた。

第27話 本日のお客様への料理『蒸しそら豆のパルミジャーノがけ』

🥂Glass 3

 1週間後の土曜夕方、そのときの若い女性が一人で店にやって来た。

「あの…、ひとりなんですけど、いいですか」

 恭仁子が先に気づいて、あ、あの時の、と言った。

「本当、父がうるさくてすみませんでした」

 幸は笑って言った。

「懐かしかったわよ。私も大阪だったから」

「えー。見えない!」

 彼女が目を見開くと、下瞼がキラキラした。

「全然、オバはん、って感じじゃないですよね。お二人とも」

「いや、立派にオバはんよ」

 幸は笑って、恭仁子を見た。

「そうだけど、いきなり言われたくないし、びっくりしちゃった」

 恭仁子がまだうっすら憤慨するのに、幸は首を振った。

「いやきっと、お父さん、いい人でしょ。私、わかるわ」

 そう言うと、女性は顔を曇らせた。

「悪い人じゃないんですけど。この街になじめるかどうか」

「え、旅行じゃなくて、引っ越して来られたの」

「はい、母が亡くなって。私、一人っ子なんです。勤めでずっとこちらへ来ているんで、一緒に住むことになったんです」

「この辺りに?」

 今度は幸が「ちょっと困ったな」と言う顔を恭仁子に向けた。
 女性は悪びれずに答えた。

「新丸子です。駅からすぐなんですけど。でも、父と二人じゃ狭いから、物件を探してます」

「いい不動産屋さんが…」

 そう言いかけた幸のエプロンの端っこを恭仁子がぎゅう、と引っ張った。

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