《2》
多美子が一瞬「いらっ」とした表情をしたのを、麻貴は敏感に感じ取った。そしてやはり、この場は自分の恋話にもって行こうと思った。
「あの、私も、実はちょっと悩んでるんです」
そこへ、有紗がお皿を運んできた。白いぽってりしたお皿に、切り分けられた肉と、クレソンとマッシュポテト、粒マスタード、トリュフ塩、が添えられたシンプルだけどこの上ない組み合わせだ。
「ああ、美味しそう」
いつの間にか赤ワインはグラスに注がれており、4人の女たちはテーブルの上のマリアージュに美味しいため息をついた。
「たまらないですね」
「ん~」
「あ~、美味しい」
「うまい」
ひとしきり食べたところで、麻貴は話し始めた。
「あの私ね、好きな人がいるんですけど、彼氏なのか、なんなのか、よくわからなくて」
「それはどういうこと?」
多美子がひと口ワインを飲んで、隣の麻貴を振り返るように見た。
見つめられた麻貴は、その目を見ずに、最後のひと切れを残し、お皿の上にいったんフォークとナイフを置いて話し始めた。
「あの、最初はファンになったというか。会社員しながら、ピアニストもやっている人なんです。それで、夜と土日は音楽をやっているから、本当に忙しいんですよ。3ヶ月位前に付き合ってくださいと私から言って、そんなことになったんですけど、でもこの先、こんなんでいいのかな、って。…私、41だし、彼は34だし」
「年はちょうどいいんじゃないの」
多美子はわりと真顔で言った。