《3》
翌週から「Luck me 」ウエブ化への資金繰りで、多美子は社内調整に忙しくなった。だが役員に会うと、意外にも話は早かった。もはやこのままでは、と、会社としての行く末も案じられていたようだった。ただし、思ったよりも予算は低かった。
多美子はまず、代理店の横井に連絡した。
「ウエブ化の予算が出てきたんだけど、まあ、そんなにたくさんないのよね。岸場さんのところでお願いできるかな」
横井はもはや岸場の会社、トレイラートゥビーの人間であるかのように言った。
「やるっしょー。それはもう、あとは広告とってきて稼げばいいわけだからさ」
「頼もしいねー。じゃ、打ち合わせ、進めようか」
「さすがタミー、話早いね。… あ、シュージ、いい男でしょ」
電話の向こうの横井がさらっと言った。
「え、… ああ、うん」
多美子は自分の気持ちがすでにバレているのかとどぎまぎした。が、横井の声はそっちとは別の方向に弾んでいた。
「男が男に惚れるタイプっつーの。この間さ、息子も一緒にラグビーしたんだけどさ、可愛くってさー。俺も作っときゃ良かったな、と思ったよ」
息子 …? 多美子の脳天にその言葉だけが響いて黒い雲がもくもく湧き出た。やっぱり岸場鷲士は結婚しているんだな、と。しかし、その真っ暗な脳天の表皮で声を振り絞った。
「横井くんは嫁からもらわないと。…岸場さんの息子さん、小さいの?」
「まだ小1だよ。おかあさんが見ててさ」
「なんでおかあさんが」
「離婚して引き取ったみたいだよ」
「へえ」
多美子の脳天の雲が一斉に引き、光が差した。が、つとめて何もない声を出した。