フレグラボ|日本香堂

人と香りをつなぐwebマガジン

Fraglab
  1. HOME
  2. 連載長編小説『4 LOVE NOTES』
  3. 第13話 『未知の初デート』
    1. 特集
  • 連載長編小説『4 LOVE NOTES』
    第13話 『未知の初デート』

《2》

今年の梅雨は短く、7月中の土曜日に、二人は鎌倉へ行くことになった。待ち合わせは藤沢の江ノ電乗り場に11時。

「希望さん、おはようございます」

「おはようございます、未知さん」

希望はボーダーのTシャツに黒いデニム。未知はまたこの日のために買ったベージュのワンピースに、ビジューのついた茶色いビーチサンダルを履いていた。このビーチサンダルはやはり多美子の入れ知恵だった。「ビジューのついたビーサンとか可愛いんじゃない? あ、ペディキュア忘れずにね」というアドバイスをもらい「ビジュー、ってなんですか」と返信すると「ビジューも知らずに女やってんのかい」と悪態をつかれ、慌ててネットで調べたら、偽物の宝石の飾りのことだとわかった。
ペディキュアは自分で塗った。爪を切って、やすり、100円ショップで悩みに悩んで選んだパールホワイトだった。

二人は並んで座り、江ノ電は動き出した。がたんごとんと、相変わらず小さくてゆったりした電車だ。が、駅に止まるに連れ、インバウンドらしき観光客であっという間に満員になった。

「すごいですね。夏休みはまだなのに」

「この頃は関係ないです。本当に外国人客が増えました」

がたんごとん。がたんごとん。やがて、二人の背中側に海の景色が広がった。二人は交互に首をひねって後ろを見た。

「ああ、いいですねえ」

「ほっとしますね」

「ええ、ほっとします」

なぜほっとするんだろう、と、未知は思った。夏の海はきらきらと波光が目を刺す。同時に同じ方向に首をひねったら、キスしてしまいそうな距離だから、二人は丁寧に交互に首をひねって海を見た。
振り向いて希望の顔に近づくとき、彼の噛んでいるミントのガムの匂いがした。

七里ガ浜まで来ると、完全に海の街の気配が漂った。

「由比ヶ浜で蕎麦でも食って、少し海辺にいきますか。暑いけど」

「はい」

一応、希望にもプランがあるようだったので、未知は任せることにした。

  1. 2/4

最新記事

  • スパイスとお香の香りが混じり合う、モロッコに根を下ろして。
  • 第7回:熊谷直久さん・畑元章さん・小仲正克社長
  • スペシャル・インタビュー 第198回:松尾貴史さん
  • スペシャル・インタビュー 第197回:小谷実由さん
  • 第6回:中原慎一郎さん・小仲正克社長
  • スペシャル・インタビュー 第196回:藤田朋子さん

スペシャルムービー

  • 花風PLATINA
    Blue Rose
    (ブルーローズ)

  • 日本香堂公式
    お香の楽しみ方

  • 日本香堂公式
    製品へのこだわり

フレグラボ公式Xを
フォローする