《2》
その日の午後。
無機質な白い会議室で、鍵崎多美子は黒いタートルネックに、困り顔を載せていた。が、口元は今年のトレンドのマットで渋めの赤で抑えている。
向かい合っているのは、集学社の女性誌担当常務、小野田だ。
多美子はつとめて冷静に淡々と話した。
「… とにかく、岸田さんは巻き込まれた可能性もあるので、真相を究明したいと思っています。ちょっとお時間をいただきたいのです。ただ、あまり時間がないのはわかっています。代理店から紹介された他業社も検討します」
「そうだね。とにかく、アイデアの豊富でシステムまできちんと預かってくれる会社と組んでもらいたい。できれば、代理店業務までできて、広告の話もできるようなところが望ましいね」
「まさに、そういう会社だったので。… ちょっとあきらめきれません」
真面目一筋でここまで上り詰めた小野田は、多美子の「あきらめきれません」に、他意は感じなかった。そして、小さくため息をついて言った。
「巻き込まれたとしたら、アンラッキーだったね。うちとしてはやっぱり、あまり傷がついた会社とは付き合いたくないな。… わかるね」
「…はい」
多美子はその場の苦い空気に、自分までがグレーに染まっていくような気がしていた。