《3》
席に戻ると、午後3時の編集部は閑散としていた。
いつからだろう。編集部に人がいなくなったのは。もちろん、昔からブランドの展示会やコスメの発表会が多い時期は、編集者は出払っていたが、なんとなく、もっと活気があった気がする。
ひっきりなしに様々な売り込みがあったり、広告の打ち合わせでたくさんの人が行き来していたからだろう。
雑誌の時代は本当に終わるのだろうか。いや、終わってしまったのだろうか。
せっかく次の時代に踏み出そうとしていたのに。一緒に組める、素敵な相手だと思ったのに。今度は岸田鷲士のことが憎らしく思えてきた。
そのとき、デスクのPCにメールが届いた。タイトルは「この度はご迷惑をおかけしています」だった。
岸田鷲士からだった。
「鍵崎多美子様
この度は僕のプライベートなことで、本当にご迷惑をおかけしています。
事件については、僕は無実です。弁護士には表立ってまだ声明のようなものを出すなとは言われていましたが、御社の案件は急を要するものだったと考えていますし、直接お話しできたらと思っています。
勝手なお願いで申し訳ありませんが、近々、お時間をいただけますでしょうか。
お会いできることを、祈っています。
岸田鷲士」
多美子はメールではなく、すぐに鷲士に電話をした。
「岸田さん」
「あ、鍵崎さん…」
声に力がなかった。しかし、作っている風もなかった。
「今夜、会えますか」
「いいですよ。どこに伺えば」
場所は神保町の裏通りにある、古い喫茶店にした。そこなら会社の人間が来ることもない。しかも夜に来ることは絶対にない。
岸田鷲士はどんな顔をして現れるのだろうか、と多美子は50%は腹立だしく、30%は冷静で、20%は「やっと会える」という思いだった。