《2》
そのとき、スマホがふるふると震えた。
思わず期待してカバーを開け、画面を見た。
鍵崎多美子、の文字が見えた。
「ああ、多美子さん、ごめんなさい、原稿、遅くなっちゃって。今書いてるところなの」
「困ってるでしょ。ね。結構大変でしょ、書くのってさ」
「はい。もうちょっと気楽に考えてました。なんか図鑑の説明みたいなことしか書けなくて」
「うんうん。ちょっとヒントをあげようと思ってね」
「ヒント?」
「そう、ヒント」
電話の向こうの多美子はまるで麻貴の様子が見えているかのような口ぶりだった。
「未知ちゃんにさ、ブーケを作ってあげるでしょう? 彼女は小柄で細っこい。そういう花嫁にはどういうブーケの形がいいのか。背の高い花嫁にはどういうブーケがいいのか。ドレスの形とブーケの関係もあるよね。そういうのを項目ごとに書いてみたらいいと思うの。まずいくつか、花嫁の体型とドレスの形を想定して、そこからブーケの形と、花の種類を提案していくのよ」
「なるほど」
麻貴は驚いた。やっぱり多美子は優秀な編集者なんだろうなと改めて思った。
多美子はこうも言った。
「麻貴ちゃんは、ブライダルのブーケが得意なんでしょう? 何か、コンテストにチャレンジしてみたらどうかな」
「コンテスト…」
「そうよ、ここで何かひとつ賞をもらっておくと、後が楽よ。私ね、ちょっと見つけたのよ、いいコンテスト」
なんておせっかいな人なんだろうと思いながらも、麻貴はじんわりとおなかのあたりが熱くなった。
「この際、仕事に打ち込んで挑戦してみたら。いい加減な男のブログなんて見てちゃダメだよ」
「え」
麻貴はぎくりとして、あわてて涼平のブログを閉じた。
なんでわかったんだろう。多美子という女性は、並外れておせっかいで、並外れて勘が鋭いのだ。