《3》
多美子からのメールが届き、リンク先に飛ぶと、そこにコンテストの詳細が書かれていた。特にそれをとったからと言って、ものすごい賞品があるわけでもなさそうだった。
「なんだ、パリ研修に行けるとかじゃないんだ」
麻貴は欲深なことを考えていた自分が可笑しくなって、ちょっと微笑んだ。そして、決めた。
そうだ。
未知ちゃんをイメージして、本気で作品を作ってみよう。
未知は小柄で、痩せ型。どんなドレスを着るつもりだろう。いくら素敵なブーケを考えても、ドレスに似合わなければ元も子もない。
麻貴は思いきって、未知に電話してみた。
「未知ちゃん、どんなウェディングドレスを着るの」
「それが…」
未知は案の定、迷いに迷っていた。データを集めすぎてよくわからなくなる癖は、ここでも生きているようだった。
「明日、最終的に決めないといけないんです。最終的にお店は絞り込んだんですけれど。麻貴さん、一緒に見に行ってもらえませんか。希望(のぞみ)さんは、任せる、って」
「いいよ」
翌日、二人は渋谷で待ち合わせ、レンタルドレス屋にいた。
「うーん…」
ネットの写真ではそれなりに綺麗に見えたが、廉価を売り物にしているその店のドレスは、実際、少しくたびれていた。結婚式を前に瞳も肌もきらきらと輝いている未知にはそぐわない、と麻貴は思った。それに、そこにあるドレスでブーケのイメージもわかなかった。
「どう…ですか」
未知は麻貴を不安げに見つめた。
「「ちょっと、出ようか」
二人は連れ立って店を出た。麻貴は昔から知り合いのオーダーメイドのドレスを作る女性に電話した。
「未知ちゃん、今から横浜行ってもいいかな」
「え。あ、ああ、いいですけど」
電車のなかで、二人はドレスのことばかり話した。
「未知ちゃんさ、あの店のドレス、よくないと思わなかった?」
「思ったんですけど、なんかあんまり高いものを言うのも悪いのかなと思ったりして。それに… 希望さんが作ってくれる靴を履けたら、ドレスは別になんでもいいかなと思って」
「それ! それ大事じゃん。どんな靴?形はもう決まってるの?」
未知はスマホのアルバムから、ミルク色の革に小さなブルーのリボンがついた、丸っこい白い靴の絵を出した。
「可愛い〜。なんでこれを先に見せてくれないの。ほら、ここから発想しないとさ」
麻貴の頭のなかにも、その靴から連想できるブーケのイメージがいくつか浮かんできた。