《2》
「岸場さん、鍵崎です。
おつかれさまです。
ケータリングは50人分、『ワインのとまらないおつまみ』シリーズの三上知恵子先生で手配しました。
できればちょっとアイデアがあるんだけれど…、その前に、新規事業の内容を教えてもらえないかしら。一応、私、社長なので」
社長なので、の後に(笑)をつけようとして、やめた。
もはや笑える状態ではないと思った。
一体どうして、鷲士は仕事内容を報告しないのだろう。ひょっとして、犯罪すれすれの言えないようなことではないのか。それとも誰かの二番煎じのようなことをしているのか。…もしもそんなことだったら、自分が最高の人脈を使った料理を並べたところで、恥をかくだけではないのか。
不安と腹立たしさと、心の底に抑えつけている「あの笑顔を見たい」という気持ちが交錯して、コーヒーの紙コップを上からぎゅっと握りしめる。
コロン、と返信がきた。
「新規事業は、金曜日の午前中の会議で決定します。いずれにしても、鍵崎さんのWEB事業を助けるものになると思います。ミッション・グレイスという社名にふさわしい、美に関する仕事です。安心してください。」
ふーっ、と多美子は大きなため息をついた。鷲士はまだ心が社長なのだ。というか、根っからの社長体質なのだ。誰かの下について、誰かに何かを報告しながらものを進めていくというタイプではないのだ。…
いろんなふうに、多美子は鷲士を認め、信じようとしていた。