《3》
その日の午後、多美子はまず、集学社の小笠原にメールをした。そして、現編集長の海上にも。
そうだ、ライターの篠田ヒロコにも来てもらおう。そうして、麻貴にも。未知にも。有紗は…店があるか。
そんなことを思っていたとき、スマホがぶるぶると震えた。
「もしもし。あ、三上先生」
「あ〜、鍵崎さん〜、ごめんなさーい。あのねえ。頼みにしていたバイトさんが来れなくなっちゃって。金曜日、ちょっと無理なのよお」
「え」
「ごめんなさーい。また何かあったらおっしゃってね。できるだけのことはしますから〜。はい。ごめんください」
言葉の端々が、どこか冷たい気がした。誰かが何か言って、このケータリングを阻止しようとしたのだろうか。いや、それは考えすぎだろうか。
…それよりも何よりも、今は誰にこれを頼むかが先決だった。
ふと、ライターから野菜料理研究家になった規江のことを思い出した。電話してみると、彼女は引き受けてくれそうだったが、ふと「野菜だけではダメだな」と、多美子は気付いた。規江も、どこか不安げだった。
しかしもう、数日後に頼めるような料理研究家はいない。そのときふと、ビストロ・ドゥ・ミニヨンを思い出した。洋三と有紗の料理はフランスと神戸のテイストがまじったなんとも味わいのある料理だ。しかし稼ぎどきの金曜を前に、仕込みができるかどうか。
でも多美子には、二人ならなんとかしてくれるという確信があった。
「50人分。いや、もし前菜的なものが無理なら、肉と魚でもいいわ。お願いできるかな」
「わかりました。なんとかします」
多美子の切羽詰まった声に、有紗は静かに答えた。子どもたちをシッターさんに預けても、これはなんとかしなくてはならない、と思った。
ほっと胸をなでおろすと、多美子はもう一度規江に電話し、野菜のオードブルやサラダを規江に頼んだ。
そして、鷲士に「料理人には変更がありますが、ワインがとまらないお料理になることは間違いないです」とメールしておいた。