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    第22話 『多美子のパーティー』

《4》

 1月の金曜日の銀座の夕刻は、相変わらずインバウンドの人たちでにぎわっていた。  大きなキャリーケースを転がす人たちをくぐり抜け、多美子は経費をかけまいと新橋まで電車に乗り、そこから汐留にある鷲士のマンションへ赴いた。

「すごいとこ住んでるんだ…」

 タワーを見上げて、多美子はしばらく動けなかった。どこに住んでいるのかも知らずその男を好きになり、どこに住んでいるのかも知らず、一緒に会社をすることになった。要するに、彼のプライベートをほとんど知らずにそんな決断をしてしまった自分を、なんて大人気ないんだと、むしろ可笑しくなった。

 エントランスに入ると受付があり、そこで名前を告げるとカードキーを渡された。 早めに来てよかった、と思った。あと30分で、規江と有紗が料理を届けにくる。

 部屋に着くと、そこは50人が集うにも十分な広さだった。ここをいくらで使えるのか知らないが、会社経営をする人たちにとっては、こういうスペースがあるのはお得だと言えるだろう。

 見渡していると、ドアが開いた。
 紙に束ねた花を抱えた麻貴が立っていた。

「麻貴ちゃん」

「タミー、おめでとう。大きいのをひとつより、何箇所かに活けたほうがいいでしょ」

「わあ、、、ありがとう!」

 黄色とグリーンに統一された花が各所にあしらわれると、そこは格段に豪華なスペースになった。

 そこへ、料理組がやってきた。

「おめでとうございます」

 有紗とバイトの千裕が大量の料理を搬入するのを手伝った。少し遅れて、規江もアシスタントを連れて前菜やサラダを運び込んだ。

 パーティー用にとネイビーのワンピースにコットンーパールをねじったネックレスをした多美子に、有紗は微笑みかけた。

「多美子さん、今日もきれい。… あの、今日は千裕さんをここへ置いていきますから、お肉のサーブをさせてくださいね」

「任せてください」

 大きなローストビーフの前で、千裕は白いエプロンを両手でつまんでお辞儀した。
 人がサーブしてくれるだけで、ローストビーフは何十倍もゴージャスになるものだ。

「そんなに予算がなかったのに… 大丈夫なのかな」

 有紗は首をふった。

「洋三さんが、お祝いだから、って」

 多美子はもう涙が出そうになったとき、鷲士と彼の最初の客が現れた。

「やあ、豪華だな〜」

「ひさしぶ…」

 いや、久しぶりはおかしいと咳払いし、多美子は「おつかれさまです」と言った。

 乾杯の挨拶は多美子がした。そして、最後に付け加えた。

「では、同じくCEOの岸場より、ご挨拶をさせていただきます」

 岸場鷲士はマイクをとり、問題は何事もなかったかのように挨拶した。

「みなさん、今日は株式会社ミッション・グレイスのローンチパーティーへお越しいただきありがとうございます。そして今日は、我が社のウエブ事業部の新規事業、集学社のLuck meドットコムのローンチと、もうひとつ始まる新規事業を発表したいと思います…」

 ざわついた場内はほどなくシーン、とした。多美子は緊張した面持ちで、岸場の顔を見守った。

「我が社はクオリティ・エイジング事業部を立ち上げました。美と健康を永続的に謳歌するための商品をEコマースによって提供してまいります。システム面では、株式会社トレイラー・トゥー・ビーの全面的な協力をいただく契約をいたしました」

 おおっ、という声とともに、拍手が巻き起こった。

 退任した会社を味方につけた、岸場という男は、やっぱりよくできた経営者だ、と多美子は思った。
 そしてこのなかで一番嬉しいのは私だ、と

To be continued…

★この物語はフィクションであり、実在する会社、事象、人物などとは一切関係がありません。

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作者プロフィール

森 綾 Aya mori
https://moriaya.jimdo.com/
大阪府生まれ。神戸女学院大学卒業。
スポニチ大阪文化部記者、FM802編成部を経てライターに。 92年以来、音楽誌、女性誌、新聞、ウエブなど幅広く著述、著名人のべ2000人以上のインタビュー歴をもつ。
著書などはこちら

挿絵プロフィール

オオノ・マユミ mayumi oono
https://o-ono.jp
1975年東京都生まれ、セツ・モードセミナー卒業。
出版社を経て、フリーランスのイラストレーターに。 主な仕事に『マルイチ』(森綾著 マガジンハウス)、『「そこそこ」でいきましょう』(岸本葉子著 中央公論新社)、『PIECE OF CAKE CARD』(かみの工作所)ほか
書籍を中心に活動中。

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