《2》
未知と希望は仲良く一緒にやってきた。希望はこの日に婚約指輪を渡すつもりでいた。職人の彼は自分で作ったらしいヌメ革のポーチを携え、ダウンコートの下に黒いタートルネックの新しいセーターを着ていた。未知はオフホワイトのVネックのセーターにベージュのプリーツスカートを合わせている。多美子にオフホワイトが似合うと言われて以来、やたらとオフホワイトばかり着ていた。
「こんばんは」
「わあ、希望さん、未知さん、メリークリスマス!来てくださってうれしいわ」
有紗は心から嬉しかった。東京には数多レストランがあるのに、幸せなカップルが自分の店を選んでくれたということが。
二人のコートを預かり、席へ誘う。外は寒いけれど、もうすぐ結婚する二人の周りには気持ちのほかほかしてくるような気配が漂っていた。
二人はスパークリングで乾杯した。19時からは客席は埋まっていたが、有紗は二人のことが気になってしかたなく、ちらちらと様子を見守っていた。
希望は緊張気味に、ポーチのなかから小さなブルーの巾着を取り出した。
「未知さん、すごく小さいのでごめん」
「えっ」
震える手で差し出された巾着を受け取り、未知はそのなかから、宝物を掘り出すように細いホワイトゴールドの指輪を見つけた。一粒の、見落としそうなほど小さなダイヤモンドがついていた。
「… こんな」
胸がいっぱいになって言葉をなくした未知に、希望は不安げにもう一度、ごめん、と言った。
未知は首を振った。
「違うの、もらえると思ってなかったから」
その指輪の細さ小ささが、親がかりで生活する希望が自分自身で買ったものなのだと物語っていた。
「ありがとう。本当に、ありがとう」
有紗はオードブルのお皿をあわててトレーに載せながら、嬉しさに口元が緩むのを止められなかった。