《3》
翌日の25日。2名の予約で先に来たのは多美子だった。
キャミソールに新品らしい白いロングカーディガン、ロングパールのネックレス。いかにも気合が入っている。そしてこの人はいったいどれだけ洋服をもっているんだろうと有紗は目を丸くした。
「いらっしゃるのを待たれますか」
「遅れるらしいから、シャンパンだけ先にグラスでちょうだい」
「かしこまりました」
有紗はフルートグラスにブーブクリコを注いだ。と、あわてたはずみでグラスの口をかつんと割ってしまった。
「あ、失礼しました」
客席と洋三を振り返り、困った顔をして、新しいグラスを取り出す。なんだか、嫌な予感がした。
「お待たせしました」
シャンパンをもっていくと、多美子は口元だけほほえんで「ありがとう」と言い、ステムをもってひと口飲んだ。窓際で、一人シャンパンを片手にして、こんなに絵になる人はいない、と有紗は思った。
10分。20分。30分…。多美子の待ち人は現れなかった。
「有紗さーん。ごめん、オードブルだけ先に食べるわ」
「そうですよね。酔っ払っちゃいますよね」
有紗は作り笑いをして、厨房のほうを向くと、洋三には辛い目を向けた。
洋三は「ほら」という顔をした。
チキンの焼き具合を見守っていた翔太が、何かを察したように、窓際のテーブルの光景をメガネをあげてそおっと見た。