《3》
「おめでとうございまーす」
「麻貴さん! ありがとうございます。もう、なんだかいい匂いがする」
「集めたわよお、白くて香りのするバラ。それから、ブルースターも」
麻貴は包みを紐解き、小さな包みのほうを開いて、まず莉奈の髪につける小さな飾りと、新郎の胸につけるブートニアを並べた。
そして、大きな包みをほどくと、そこには花嫁が一生に一度手にする美しいラウンドのブーケが現れた。
そのとたんに、白いバラが一斉に香りたった。
香りの良さに、皆、いったん沈黙して息を吸い込んだ。
有紗がほろ酔いのような瞳で尋ねる。
「バラってこんなに香るものなんですか」
「普通は切り花はここまで香るものはないんだけれどね。特別にバラ園から取り寄せたのよ。季節柄まだハウスものだからどうかなと思ったけれど、いいわね」
麻貴は満足げに答えて、ブーケを整えた。
未知の髪に飾るティアラはその場で仕上げることにしていた。グリーンだけのベースに、針金を通したバラやブルースターを配していく。あっという間にそれも完成した。
鎌倉の百合子が仕立てたウェディングドレスに生花のティアラとブーケはとても似合った。そして、もちろん、新郎の高井希望がつくったミルク色の革に小さなブルーのリボンがついたあの先の丸い靴にも。
そこへすっかり変身したモーニング姿の新郎が現れた。小柄な希望に燕尾のジャケットは大丈夫かと未知は心配していたが、意外に似合っていた。
「かっこいいよ、希望さん」
「未知さんも… きれいだ」
麻貴が低い声でぽつりと言う。
「… やってられないわ」
有紗もヘアメイクの女性もくすくすと笑った。
麻貴と有紗は、人数調整のこともあって披露宴の参席は辞退し、式だけに参列することになっていた。