《4》
吹き抜けのチャペルは、陽の当たるほうが全面ガラス張りだった。燦々と降り注ぐ光のなかで、父親とバージンロードを歩く未知のアンクル丈のドレスから、希望のつくった可愛らしい靴がのぞいている。
新郎のそばに立った時、指輪の交換で向かい合うとき。麻貴には、自分のつくった花よりも、その手作りの靴が見えることが嬉しく思えた。
「よかったよねえ… ドレスの丈も変えずにすんでさ」
麻貴は少しジーンとしながら隣りの有紗を見ると、有紗はもうはらはらと涙を流して、莉奈の肩を抱いていた。
「おかあさん、だいじょうぶ」
「え」
莉奈は初めて有紗のことを「おかあさん」と呼んだ。それが嬉しくて有紗はまた涙が止まらなくなった。
挙式はクライマックスにさしかかった。誓いのキス。
「いいねえ… 若いって」
聞き覚えのあるそのささやき声に麻貴と有紗が振り向くと、後ろに多美子が立っていた。
と、隣りの男性に寄り添っている。
「え」
「翔太くん、何やってんの」
有紗は思わず大きな声を出してしまい、参列者が一斉に振り向いた。
挙式が終わり、莉奈がかごをもって二人の後ろから花びらをまいて歩く。
拍手をしながら、麻貴は多美子の隣りにやってきた。
「あの、なんで二人でいるんですか。ひょっとして、ひょっとするんですか」
多美子は聞こえないふりをして拍手し、新郎新婦を見ていた。
が、突然、麻貴の肩をぽん、と叩くと自分から先に前へと走り出ていった。
麻貴も「あ」と叫んで駆け出し、上へ上へと大きく手を伸ばした。
ガラス越しの陽をいっぱいに浴びた白いバラのブーケが芳香を放ちながら宙を舞い、放物線を描いた。
The end
★この物語はフィクションであり、実在する会社、事象、人物などとは一切関係がありません。
作者プロフィール
森 綾 Aya mori
https://moriaya.jimdo.com/
大阪府生まれ。神戸女学院大学卒業。
スポニチ大阪文化部記者、FM802編成部を経てライターに。
92年以来、音楽誌、女性誌、新聞、ウエブなど幅広く著述、著名人のべ2000人以上のインタビュー歴をもつ。
著書などはこちら。
挿絵プロフィール
オオノ・マユミ mayumi oono
https://o-ono.jp
1975年東京都生まれ、セツ・モードセミナー卒業。
出版社を経て、フリーランスのイラストレーターに。
主な仕事に『マルイチ』(森綾著 マガジンハウス)、『「そこそこ」でいきましょう』(岸本葉子著 中央公論新社)、『PIECE OF CAKE CARD』(かみの工作所)ほか
書籍を中心に活動中。