京阪・香里園駅からなだらかな一本の坂があって、登りきったところに、聖母女学院があった。
途中、香里カトリック教会があり、そこからはほぼ平坦で、むしろやや下るようになる。
大きなフランスの宮殿のような門を入ると、正面に校章を掲げたメインの校舎がある。
右手にはルルドの岩屋のレプリカがあり、白いマリア像が私たちを見下ろしている。
石造りの校舎の廊下は大理石。最初に校長室や客間があって、職員室へと続き、教室になる。
学生はその脇の桜並木からクロークルームに入って靴を履き替え、教室へと向かう。
クロークルームへ入らず、そのまま進むと校舎と校舎の間に中庭があり、大きな銀杏の木が並んでいた。
校舎のもっと奥には謎の建物があった。
「あれが修道院です」
平屋建ての校舎より地味な建物。オリエンテーションで校内を案内されたとき、みんなが一番興味を持ったのがその建物だったと思う。
「あそこに住んではるんやね、シスターは」
「女同士だけで」
「暗そう」
私は子どもの頃、修道院を舞台にしたオカルト漫画を読んだことがあった。小学校の3〜4年の頃だったか、貸本屋で借りてくるオカルト漫画に夢中になっていたのだった。「アラベスク」のようなバレエ漫画も読んだが、人が蓑虫にされたり、猫をいじめたら猫の赤ちゃんが生まれてきたりといったオカルト漫画が衝撃的だった。そのなかに、修道院を舞台にしたものがあり、可愛い少女を探してきては修道院に招き入れ、結局その子を食べてしまうという話を読んでしまった。
…読んでしまっていた。
もちろん、私も中一になっているのでそんなことはあり得ないと理屈ではわかってはいるものの、修道院がおどろおどろしく思えて仕方がない。
シスターたちは、実は何かものすごい秘密を隠し持っているのではないか、といぶかっていた。
母親もその20年ほど前は同じ聖母の中高に通っていたので、その時代からいるシスターもまだいらっしゃった。
「おかあさんの時代はマメール、って呼んでたんやで。ほんで、もっと顔の一部だけしか出てない服を着てはったんや。手も見せてはらへんかったと思うで」
「手ェも!」
そういえば、廊下の額に飾ってあった創業者、レベランドメール・マリ・クロチルドの衣装はもっと物々しかった。
フランスからこの地に学校を建てようと奮闘した修道女たちがいたのである。
「階段の上から降りてきはるときは、下で待たなあかんねんで。ほんでお辞儀してから、上がる」
「ほんまに!」
そのしきたりこそなくなっていたが、私たちは廊下で前からシスターや先生方が歩いてこられると、立ち止まってお辞儀をするように言われた。
それにしても、修道院の中はどうなっているのであろうか。いつもそちらを眺めると、謎がむんむんとお香のように静かに香り立っていた。