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  • その22「MADE IN KOBE」

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⚫︎学長の飲み相手

 3年生の秋から出演していた毎日放送ラジオのナイターオフ番組も、プロ野球が開幕する春には終わってしまったが、ラジオ関西では最初の番組の後『ドラ金小曽根カンパニー』という金曜生ワイドの専属リポーターとして、出演させてもらえていた。
 この番組は、小曽根実さんというハモンドオルガンの名手がパーソナリティーをしていた。今、大活躍しているピアニスト、小曽根真さんの父君である。
 ラジオ関西は神戸の放送局ということで、ジャズに親しんでいる人が多かった。原田紀子さんというアナウンサーは、プロ・シンガーでもあった。
 そんな環境のなかで、プロデューサーたちが小曽根さんの店『mm join』に連れて行ってくれたりした。
 初めて訪れた『mm join』のオープニングの曲は『Satin doll』で、2ndの最初の曲は『アルハンブラの思い出』だったのをはっきりと憶えている。
 色とりどりに重なり合うコード。スィングのリズム。波立ち続けている心がスーッと、凪いでいくように思えた。
 ああ、ジャズはいいなあ。
 そういえば、母親がナットキングコールが好きで、アルバムが家にあった。取り出して、聞いた。こんな音楽が、あったなんて。
 私がジャズの話をすると、事務所の女性社長がジャズボーカルを習うことを勧めてくれた。当時大阪で、阿川泰子さんが来た時に伴奏したりされていた、大塚善章さんに頼んでくれるという。
 私はジャズとどんどん接近していった。

 夏の終わりから秋にかけて、元気を取り戻しつつあった私は、キャンパスでもこんなお願いをされることとなった。
 それは、山口光朔学長ゼミの友人たちから。

「もりちゃん、お酒飲めるやろ? あんな、光朔の飲み相手がいてへんで困ってるねん。私らの学年、誰も飲まれへんねん。一つ上の学年はみんな飲みはったし、派手なお姉さんが多かったから、すごい楽しかったみたいやねんけど」

「くめっちが…」

 1人飲めそうな女子を思い出して口走ったが、すぐに彼女はボーイフレンドと会うのに忙しいと、思い直した。私は、デートの予定ももうなかった。

「わかった。どこ行ったらええの」

「SONEってわかる?北野坂の」

「ジャズバーや」

 そういえば、ラジオ関西の原田さんが週末歌っていると聞いたことがあった。

「火曜と木曜やねん。頼むわ。言うとくから」

 その後、廊下でアロハ姿の学長と出逢った時「あの、、、」と声をかけた。

「おお、君がもりさんか。ウエルカムやで。火曜と木曜。7時半にはおる」

 そう言って、学長は西欧人のようにウィンクし、後ろ姿で左手を挙げて去っていった。

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