大阪の実家の墓地は、住宅地の中にある上辻霊園にある。おそらく100年以上あるだろう霊園で、朽ちた墓も随分しまわれ、最近は新しい墓も立っている。
実家に帰ると、ほぼ必ず墓参りへ行く。この霊園は、地元の人が共同で運営しているので、真ん中に大きなお地蔵様がいらして、そこに線香が置いてあり、お金を入れて買うことができる。もちろん、自分で持っていってもいい。ろうそくを立て、線香に火をつける。
まずお地蔵さまを拝み、バケツに水をはって、それぞれの墓地へいくのだ。
私は物心ついた時から、母方の祖母とここへよく来た。
地域の婦人会のようなものがあって、皆で霊園の掃除をするのである。そのおばあさん軍団みたいなところへ、祖母と私はついていった。
7〜8人のおばあさんたちは、皆、夫や息子の悪口を言ったり、嘆いたりしていた。私の祖母はその話題に入ろうとせず、私の手を引いて後ろからついていくだけだった。
小さい私は、祖母が仲間外れになっているのではないかと推察した。おばあちゃんは私にかまっていて、その輪に入れないのではないかと。
私は意を決し、おばあちゃんの手をふり払って大きな声で言った。
「おばあちゃん、おばあちゃんも、みんなといっしょにしゃべってきぃ」
前を歩く軍団の会話が止まった。すると、祖母はこともなげに言った。
「しゃべること、あらへん」
軍団の1人が静かに言った。
「梅原さんは、ご主人の悪いこと、言わはらへんもんな」
場の空気が白けた。私は「だからおばあちゃん、友達でけへんねん」と、歯痒く思った。
家に帰って母親にその話をすると「おばあちゃんやなあ」笑っていた。
そういえば、本当に、祖母が夫や息子の悪口を言っているのを聞いたことがなかった。昼も夜も工場で、修正台の前で働き続ける職人の夫を思い、息子も娘も可愛がっていた。「金くれい」と言われると、惜しむことなく、お財布の中のお金を差し出してしまった。
若い頃の私は、そういう祖母を見ると「何が楽しいんやろう」とよく思った。全部自分のことが後回しで、ひたすら働いて。
でもあの頃の祖母くらいの歳になってみて、彼女のあり方は正しかったと思う。今更、家族の悪口を言い合って楽しむような友達なんて、いらない。
先日も「初めて小説を出せたよ」と、お墓へ報告に行った。お線香が吹き消そうとしてもボーボー燃えた。祖父母が喜んでくれているのだと思った。
森家の祖父は帰化しているから、その墓地を同じ霊園にもてるよう差配してくれたのも梅原の方の祖父母だった。森家の新しい墓の方が、平たくて日のあたる良い場所にある。それもあの人の良かった祖父母らしいと、いつも目を瞑って、両の手を合わせる。
皆今は静かに同じように眠っている。亡くなった人たちに、言葉は通じないかもしれない。だけど、ありがとうの思いは、たなびくお香の煙に寄り添ってそこに眠る人たちに届くのではないだろうか。届けばいいなあ、と心から思う。
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Photo by Ari Hatsuzawa
Hair&make Junko Kishi
Styling Hitomi Ito