1. HOME
  2. 連載読み切り短編小説『香りの記憶』
  3. 第2回『LOTUS PLACE』
    1. 特集
  • 連載読み切り短編小説『香りの記憶』
    第2話『LOTUS PLACE』

《3》

LOTUS PLACE③

40歳の友里江の恋はもう少し複雑だった。
冷めたマサラ・ティーをひと口飲むと、友里江はエリカに話し始めた。

「同い年でね。高校時代の同級生の紹介で一緒に飲んだところから始まったの」

外資証券会社に勤めるその男は、パリで弁護士をする妻がいたが、単身で日本に戻ってきていた。

「彼は言ったの。…彼女は一人っ子で、自分の両親とパリにいたい。自分も一人息子で横浜に母を一人残している。最近、心臓のカテーテル手術をしたりして弱っているから、そばにいてやりたい。… そんな話を正直にしてくれたわ」

付き合い始めると、旅取材が多い友里江と男は話題が合って、あっという間に互いの心の拠り所になった。
彼はよく美味しいものを作った。特に学生時代にイタリアンでバイトをしていたこともあり、スパゲティが絶品だった。バジリコも、ミートソースも。

「妻との間に子どもはいないから、いっそ子どもを作ってしまおうかなんてね。でもできなかった。そんなことを言いながら、クリスマスにパリから妻がやってくることになると、ヤツはそわそわし始めたの」

エリカは眉を少し寄せて、上目遣いに友里江を見た。

「それで、とらなかったんですか、彼のこと。」

友里江はティーカップを両手で包んで、きっぱりと言った。

「迷ってる人を、無理やり奪って、うまくいくはずがないわ」

大きなため息をついたのは、エリカのほうだった。

「その彼、ちょっと私に似てますね」

「…かなあ」

「迷う、って人を傷つけるんですね。何が一番大事なのか。誰が一番大事なのか。ブレちゃ、ダメだな」

エリカは自分に向けるように、強く言った。

そこへ、コーディネーターのガウリが二人を迎えにやってきた。

友里江とエリカは顔を見合わせて、お茶の残りを慌てて飲んで、立ち上がった。

  1. 3/4

先週の人気記事

スペシャルムービー

最新記事

  • スペシャル・インタビュー 第66回 増田惠子さん

    更新日:2020年1月29日

  • ダイエット中におすすめの香り―グレープフルーツ・ジュニパー

    更新日:2020年01月23日

  • 長編小説第25話(最終話)

    更新日:2020年1月22日

  • スペシャル・インタビュー 第65回 加藤巍山さん

    更新日:2020年1月16日

  • 香りの「ノート」-香りの質と持続性-

    更新日:2020年1月9日

  • スペシャル・インタビュー 第64回 林哲司さん

    更新日:2020年1月6日

  • スペシャル・インタビュー 第63回 浜田統之さん

    更新日:2019年12月26日

  • ロマンティックになりたいときには ― イランイラン・ジャスミン

    更新日:2019年12月18日